下落相場時における自宅の売却マニュアル〜住宅ローン残債の処理方法や売出し価格の決め方、売却損が出た時の特例制度など徹底解説~

前回のコラム、上昇相場時における自宅の売却マニュアル〜売り時を見極めるポイントや売却益が出た時の税金などを徹底解説〜では2024年現在のような不動産マーケットが好調な時の自宅売却について取り上げました。

今回はそれとは逆で不動産マーケットが不調の時、下落相場時における自宅の売却について取り上げます。

相場が下落している時にどのように自宅を売却すればよいのか、住宅ローンの残債の処理方法や売り出し価格の決め方、売却損が出た時に活用できるお得な特例制度などをご紹介していきます。

不動産マーケットも何かをキッカケに下落トレンド入りする可能性も十分考えられます。

下落相場の到来まで少し気が早いかもしれませんが、備えあれば憂いなしです。

さっそく見ていきましょう!

住宅ローンが残っていても自宅は売却できるの?

不動産マーケットが不調な時は戸建て、マンション、投資用アパートなどの物件種別に関係なく、不動産全体が値下がりします。

値下がりするという事は不動産を売って手元に入るお金が減るという事でもありますが、自宅を売却する方の心配事の一つに住宅ローンの返済があると思います。

残念ながら下落相場時は住宅ローンの残債より売却価格が低くなってしまうことが往々にしてありますが、そのような場合、自宅を売却することはできるのでしょうか?

答えを先に言ってしまうと、原則、金融機関に住宅ローンを全て返済した後でなければ売却することはできません。

何故あえて「原則」という言葉を使ったかというと、住宅ローンを完済しなくても自宅を売る例外的な方法があるからです。

ここでは自宅に住宅ローン残債がある場合の売却方法について、パターン別に見ていきたいと思います。

一般的な自宅の売却

売却価格が住宅ローンの残債より低くても、貯金などの手持ち資金でローンの残りを返済できる方は、一般的な方法で自宅を売却することになります。

繰り返しになりますが、自宅を売却するには住宅ローンの完済が前提となりますので、貯金などの手持ち資金から拠出できない場合は、売却自体を見送るのが普通です。

一般的な自宅の売却は次のような手順で進めてくことになります。

  1. 売却相談、価格査定
    不動産会社に自宅の売却相談と価格査定の依頼をします。1社に限定せず、できるだけ複数(5~6社)の不動産会社に依頼するようにしましょう。
  2. 媒介契約
    売却活動を依頼する不動産会社が決まったら、その不動産会社と媒介契約を締結します。媒介契約締結後、本格的な売却活動がスタートします。
  3. 売買契約
    売却活動中、自宅の買主が見つかったら売買契約を締結します。後になって買主とトラブルが起こらないよう売買契約書に記載されている内容はしっかり理解しておきましょう。売買契約に不明な点や疑問に思う箇所があれば、不動産会社に事前に質問をして解決しておきましょう。
  4. 物件の引渡し(決済)
    売買契約後、買主の住宅ローンの承認が下りたら最後に物件の引き渡しを行います。具体的には自宅の登記上の所有権を売主から買主に移転させます。また、戸建てやマンションなどの建物付きの物件を引き渡す場合は、玄関の鍵も買主へ引き渡します。

一般的な売却方法については、不動産売却の流れと方法を徹底解説〜はじめての自宅売却で失敗しないためのポイント〜に詳細が載っていますので参考にしてみてください。

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任意売却

売却価格が住宅ローンの残債より低い、貯金などの手持ち資金でローンの残りを返済できない方向けの特別な売却方法として、「任意売却」があります。

任意売却は、「住宅ローンの債務者である売主」と「住宅ローンの債権者である金融機関」の合意の上に成り立つ売却方法です。

売主からすると一見メリットが大きい売却方法のように感じるかもしれませんが、任意売却を実行するためにはいくつかクリアしなければならない条件があります。

任意売却を実行するための主な条件
  1. 住宅ローンの返済を滞納している
    住宅ローンの債権者である金融機関は、基本的に任意売却を望んでいません。債務者(売主)の毎月のローン返済に問題が無ければ、そもそも任意売却はできません。
  2. 自宅の所有者と住宅ローンの債権者(金融機関)の同意を得ている
    任意売却を実行するには住宅ローンの債権者である金融機関の同意が必要となります。また、自宅が夫婦や親子などで共有されている場合は、共有者全員の同意も必要となります。
  3. 自宅が差押えられていない
    住宅ローンを滞納している方は往々にして税金なども滞納しているケースがあります。税金の滞納が続くと国や市区町村が自宅を担保として差し押さえをしてくる場合があります。自宅が差し押さえられると任意売却はできなくなりますので注意しましょう。

自宅を任意売却する時の流れですが、基本的に一般的な自宅の売却と同じように進めていきます。

任意売却した後に残った住宅ローンの金額については、債務者の日々の生活に支障がない程度の金額(2万円~5万円)を毎月コツコツと返済していくことになります。

任意売却は気軽にできるものではありません。

あくまで最後の手段として任意売却があると考えておきましょう。

任意売却についての詳細は、任意売却はどう進めればいいの?流れや手続き、期間などを徹底解説します「任意売却とは?」メリットは?残債は?…知っておくべきポイントまとめを参考にしてみてください。

下落相場時における自宅売却のポイント

ここでは下落相場時における自宅売却のポイントについて解説していきます。

不動産マーケットが不調な時は物件の供給量が購入需要より多くなるため、不動産価格が値崩れしやすくなります。

売り出し価格の設定を誤ってしまうと、売却活動の長期化に繋がってしまうので注意しましょう。

売却を急がなければ最初は強気の価格設定でもOK

任意売却のような売却を急ぐ理由がなければ、最初は多少強気な価格で売りに出しても大丈夫です。

自宅のような実需物件は投資用不動産と違って価格以外の要素が購入の決め手になるケースがあります。

例えば、〇〇学校の学区内の物件、〇〇マンションの高層階など、あらかじめ買主が狙っていた条件の物件が売りに出された場合、価格が相場より多少高くても購入する層は一定数います。

自宅が人気のある学校の学区内に立地している場合や人気のあるマンションの場合などは下落相場時でも相場価格より高値で売却できる可能性があります。

なお、具体的な売り出し価格ですが、強気と言っても相場価格より20%以上高い価格設定は避けたほうが良いでしょう。

上昇相場時のように今後も不動産価格の値上がりを期待できる局面ではありませんので、過度な強気の売り出し価格では反響が取れなくなってしまいます。

事前に許容できる売却価格の下限を決めておく

売り出し価格とは別に売却価格の下限をあらかじめ決めておくことも大切です。

下落相場時は売り手より買い手が優勢となります。ほぼ間違いなく買主から値引き交渉があると想定しておいた方が良いでしょう。

値引き額にもよりますが、値引きされるのを嫌って断ってしまうと、売却のチャンスを逃してしまうことになります。

下落相場時では次の買主候補がいつ現るか分かりません。

売主としてなるべく高い価格で売却したいという気持ちは理解できますが、事前に許容できる売却価格の下限を決めておいて、買主からの値引き額がその下限を上回るのであれば、潔く売却した方が良いでしょう。

売却活動は3ヶ月間が一つの目安。買い手が見つからない場合の原因と対策

売却活動がスムーズに進めば、自宅を売りに出してから3ヶ月程で買主が見つかります。

不動産会社と締結する媒介契約の期間も3ヶ月となっていますので、3ヶ月という期間は売却活動の一つの目安と捉えて良いでしょう。

「反響の問い合わせが少ない」、「内覧する人はいるけど購入まで至らない」など売却活動がうまくいかない場合、原因に応じた対策が必要となります。

物件の問い合わせ、内覧が少ない場合

そもそも物件の問い合わせや内覧が少ない場合は次のような原因が考えられます。

  1. 売出し価格が相場価格と合っていない
    売出し価格が相場価格と乖離していると反響がなかなか取れません。
    マイホームの購入を検討している方は、あらかじめ予算(例えば5,000万円~6,000万円)を決めています。
    予算外で売りに出ている物件は検索条件にヒットしないため、物件自体が認知されていない場合があります。
    売出し価格は基本的に売主が決められますが、下落相場時においては強気すぎる価格設定は避けた方が良いでしょう。
    売出し価格が妥当かどうかについては、不動産会社がいろいろとアドバイスしてくれるので、反響がなかなか取れない場合は一度相談してみましょう。
  2. 不動産会社の売却活動に問題がある
    「不動産会社が物件の囲い込みをして意図的に買い手を制限している」の2パターンが考えられます。
    前者のパターンは日頃の売却活動の報告や担当者の対応を見ていれば真剣に売却活動を行っているかどうか、素人の方でも分かると思います。
    一方、後者のパターンは厄介でなかなか見破ることができません。
    囲い込みとは不動産会社の悪しき慣習の一つで、仲介手数料を多く取れる両手取引を狙うためにワザと買い手を制限することです。
    囲い込みの詳細は、不動産業界の悪しき慣習「囲い込み」とは何か?をご覧ください。いずれのパターンも不動産会社に改善の要求をして改善が見込めないのであれば、早急に不動産会社を変更した方が良いでしょう。
  3. そもそも物件として魅力がない
    残念ながら物件そのものに魅力がなければ反響を得ることは困難です。
    立地、築年数、間取り、建物のグレードなど物件の需要を決める要素はいろいろありますが、人気がない物件は最終的に価格で折り合いをつけるしかありません。
    特に下落相場時は人気物件と言われるものでも売却に苦戦することが多いので、もともと需要が少ない物件は、場合によっては大幅な価格のディスカウントが必要になってくることもあります。
問い合わせや内覧はあるが契約まで至らない場合
物件の反響や内覧はあるけどなかなか契約まで進まない場合、次のような原因が考えられます。
  • ネットや資料で見た物件と実物の物件とのギャップ
    問い合わせや内覧などの反響はあるものの契約まであと一歩届かない場合、ほとんどの原因は買主がネットや資料で見た物件と実物の物件とのギャップを感じたことによります。
    ネットやパンフレットなどの物件写真や物件紹介文は良いところしかアピールしません。
    「ネットやパンフレットで見ると素敵な物件なのに実物を見ると期待外れだった」ということはよくあります。
    これらの対策としては、物件の室内を綺麗にして内覧時の印象を良くしましょう。
    可能であれば建物の外観も綺麗にできれば良いのですが、膨大な費用が掛かりますし、マンションであれば住人一人の意思決定で行う事はできません。
    その点、室内を綺麗にすることは費用面でも大きな負担はありません。
    売主が居住中であれば、室内を整理整頓してモノが目につかないようにする、掃除をして清潔感を出すなどの対策をしましょう。
    特にキッチンや浴室、トイレなどの水回りの汚れや臭いを気にする方は多いので、入念に掃除をして万全な状態で内覧者を迎えましょう。
    汚れがひどい場合はプロの清掃業者に依頼するのも一つの手です。
    キッチンなど部分的な掃除であれば2万円~3万円程度の費用で済みますので検討してみてはいかがでしょうか?

自宅の売却で損が出たらどうする?

ここからは自宅を売って売却損が出た時の対応についてご紹介していきます。

下落相場時に自宅を売却すると売却損が出てしまう場合が多いのですが、売却損をうまく利用することで税金が戻ってくる特例制度があります。

給与所得が中心の会社員の方にとっても税メリットが大きい特例ですので、ぜひチェックしておきましょう。

まずは譲渡所得を計算しよう

まずは自宅の売却で売却損が発生するか確認するために譲渡所得の計算方法を見ていきたいと思います。

自宅の売却によって得た売却益は、難しい言葉で「譲渡所得」と言います。譲渡所得がプラスだと売却益が出たと見なされて「譲渡所得税」という税金を支払うことになります。

一方、譲渡所得がマイナス(譲渡損失)だと売却損が出たと見なされますので、譲渡所得税がかかることはありません。

<譲渡所得の計算方法>

譲渡所得 = 自宅の売却価格 ー (自宅の取得費 + 自宅の売却にかかった諸費用)

  • 自宅の売却価格とは
    実際に自宅が売れた価格です。売買契約書や重要事項説明書に記載される物件の売買金額が根拠となります。
  • 自宅の取得費とは
    売却した自宅の購入時の価格から建物の減価償却分を差し引いた金額です。
  • 自宅の売却にかかった諸費用とは
    自宅の売却にかかった仲介手数料や印紙代などの費用のことです。

事例として、新築の戸建てを7,000万円で購入して、数年後に5,000万円で売却した場合の譲渡所得の計算方法を見てみましょう。

なお、建物の減価償却分は500万円、自宅の売却にかかった諸費用は160万円とします。

譲渡所得(-1,660万円) = 自宅の売却価格(5,000万円) ー (自宅の取得費(6,500万円) + 自宅の売却にかかった諸費用(160万円))

このケースだと譲渡所得がマイナス1,660万円となりましたので、自宅の売却による譲渡損失は1,660万円ということになります。

給与の源泉徴収が還付される!住宅譲渡損失の繰越控除の特例

自宅の売却で譲渡損失が出ると税金が戻ってくるお得な特例制度を利用することができます。

この特例のことを「住宅譲渡損失の繰越控除の特例」といいます。

住宅譲渡損失の繰越控除の特例は、自宅の売却損の金額を給与所得などの他の所得と損益通算することができ、損益通算しても赤字となった金額については翌年以降3年間繰り越して所得から控除できるお得な制度です。

この特例制度を利用することでどれくらいの税メリットがあるのか、先ほどの事例を使って見てみましょう。

2023年 自宅の売却による譲渡損失1,660万円
2023年 給与所得800万円
2024年 給与所得850万円

上記のような給与所得を得ている会社員の方が自宅を売却したケースで、住宅譲渡損失の繰越控除の特例を利用すると次のように損益通算することができます。

<2023年損益通算>

給与所得800万円 - 譲渡損失1,660万円 = -860万円

損益通算により2023年の給与所得800万円は0と見なされます。

これにより、給与所得800万円に相当する所得税(概算で60万円くらい)が還付されることになります。

また、譲渡損失の残り分-860万円は翌年に繰り越すことができます。

<2024年損益通算>

給与所得850万円 - 譲渡損失の残り860万円 = -10万円

損益通算により2024年も前年と同様に給与所得は0と見なされ、給与所得850万円に相当する所得税(概算で70万円くらい)が還付されることになります。

いかがでしたでしょうか?

今回の事例では「住宅譲渡損失の繰越控除の特例」を活用することで、約130万円の節税を実現することができました。

なお、給与所得は毎月会社に源泉徴収されるので、確定申告によって1年間の所得税の還付を受けるかたちになります。

住宅譲渡損失の繰越控除の特例を自動的に受けることはできないので、くれぐれも確定申告をするのを忘れないよう注意しましょう。

住宅譲渡損失の繰越控除の特例を受ける条件
この特例を受けるには次の条件に該当している必要があります。一般的な会社員で自宅を売却して売却損が出れば、大半の方が該当すると思います。
  1. 売却する不動産が自らが居住していた自宅(マイホーム)であること
  2. 特例を受ける年の所得合計が3,000万円を超えていないこと
  3. 自宅の売却によって譲渡損失が出ていること
  4. 確定申告をすること
    ※確定申告の方法については不動産を売却後の確定申告~必要な人はだれ?どうやるの?~を参考にしてみてください。

自分が住宅譲渡損失の繰越控除の特例の条件に該当しているかどうか確認した方は、最寄りの税務署に問い合わせてみてください。

相場下落時に不動産を売却する場合のまとめ

今回は「下落相場時における自宅の売却」をテーマに、売却時のポイントや譲渡損失が出た時の特例制度などをご紹介してきました。

今回のまとめとして最後にお伝えしたいのは、「可能であれば下落相場時に自宅を売却するのはやめた方がいい」という事です。

前回のコラム、上昇相場時における自宅の売却マニュアル〜売り時を見極めるポイントや売却益が出た時の税金などを徹底解説〜でも書きましたが、不動産というものは全く同じ条件の物件でも売却する時期によって価格は大きく変わってきます。

お子さんの学校や仕事の事情など、どうしても自宅を売却して住み替える必要がある場合は別ですが、それ以外の場合はなるべく不動産マーケットが好調な時を狙って売却することをオススメします。

自宅の売却は自宅の購入と同じくらい重要な決断となります。

後になって「あの時にあんな安値で自宅を売却しなければよかった。。。」と後悔しないように、売却する時期には細心の注意を払って満足のいく自宅売却を実現させましょう。