相続対策が変わる!?不動産と民法改正の4つのポイント

不動産の相続に関わる民法の規定が40年ぶりに改正されます。
改正法案は2018年6月19日の衆院本会議で可決され、参院に送られることになりました。衆院で可決された為、ほぼ間違いなく法改正は行われると思っていいと思います。

昔から不動産は相続対策の王道として富裕層を中心に活用されてきました。もしかすると自分には相続問題は関係ないと思っている方も多いかと思いますが、今回の法改正は我々のような一般人に深く関連する内容となっています。

今回はそんな不動産相続に関連する法改正として、ここだけは押さえておきたい4つのポイントに絞ってお話したいと思います。マイホームは大事な財産です。相続で失敗しないように法改正を理解してしっかり準備しましょう。

相続に関連する民法改正の4つのポイント

今回の法改正は大きく分けて以下の4つのポイントに絞ることができます。

①配偶者居住権の創設
②遺産分割に関する変更
③遺言に関する変更
④相続対象者の範囲拡大

なんだか難しい単語がズラズラと並んでいますが、遺産分割や遺言などの言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。

詳細は順を追ってお話していきますが、そもそも何故このタイミングで民法が改正されることになったのでしょうか?先ずはこの度の民法改正に至った理由から見ていきましょう。

民法改正を取りまとめている法務省が公表している見解としては、

「高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続が開始した場合における配偶者の居住の権利及び遺産分割前における預貯金債権の行使に関する規定の新設、自筆証書遺言の方式の緩和、遺留分の減殺請求権の金銭債権化等を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」

だそうです。これじゃ難しすぎて何を言っているか、あまりわかりませんよね。

これをざっくりと簡略化して言うと、「相手に先立たれて取り残された夫や妻(配偶者)は、経済的に生活が苦しくなる可能性があるから、なるべく今後の生活にゆとりが出るように配慮することにします。加えて、遺言とか相続手続きで従来のやり方は不便だったので併せて良い仕組みに変更しちゃいましょう」といった感じでしょうか。

では、具体的にどのように変更されるのか、内容を詳しく見ていきたいと思います。

法改正① 配偶者居住権の創設

法改正の1つ目は「配偶者居住権」という新しい権利ができることです。
「配偶者居住権」とは、相続が開始した時に被相続人(=亡くなった方)の所有していた住宅に住んでいる残された配偶者について、その配偶者が亡くなるまでの間、その住宅に賃料などを払うことなく住み続けることを認める権利です。

これはどういうことかと言うと、相手に先立たれて残された夫や妻は、そのマイホームの所有権を持っていなくても「配偶者居住権」があれば無償で住み続けることができるという、配偶者を保護する非常に強い権利です。

また、所有権と比べて、配偶者居住権は財産価値の評価が低く見積もられるので、マイホーム以外の現金や株などを従来の相続より多く承継することができるのです。

こちらは具体的な事例を参考として見ていきたいと思います。


〜配偶者居住権の相続事例〜
※この事例は「法務省公表の配偶者居住権の相続事例」に筆者が加筆・修正したものです

  • 家族構成:夫、妻、長男、長女の4人
  • 家族亡くなった方:夫
  • 財産を相続する方々:妻、長男、長女
  • 夫が残した財産:マンション2000万円、貯金3000万円の合計5000万円
    ※夫が亡くなるまで家族4人で2000万円のマンションで暮らしていました

◆従来の相続(法律の按分に即した場合)

  • 妻:マンション 2000 万円、貯金 500 万円の合計2500 万円
  • 長男:貯金 1250 万円
  • 長女:貯金 1250 万円

◆法改正後、配偶者居住権を利用した時の相続(法律の按分に即した場合)

  • 妻:マンションの配偶者居住権の価値1000万円、貯金1500万円の合計2500万円
  • 長男:配偶者居住権付マンションの所有権価値1000万円、貯金250万円の合計1250万円
  • 長女:貯金1250万円

いかがでしょうか。ご覧のとおり、妻の相続する財産の総額は改正前と改正後で変化はありません

しかし、法改正後の配偶者居住権を利用した場合の相続は、妻の貯金、つまり現金の取り分が1000万円増加することになりました。

これにより冒頭で紹介した法改正の目的である、残された配偶者の生計を維持するということができるようになります。逆に長男は、配偶者居住権付きのマンションを取得する代わりに貯金の手取りが減少してしまいますが、これは、現役世代である長男に現金を多く残す必要はないというのが法務省の見解なのだと思います

ちなみに1点注意しなければならないことは、この配偶者居住権を主張するには配偶者居住権の登記をしなければなりません。登記とは、謄本という法務局が保管している不動産の所有者を明記している帳簿に記載する手続きのことです。不動産登記をする場合は、一般的に司法書士に依頼することになりますので、気になる方は一度相談してみても良いかもしれません。

法改正② 遺産分割に関する変更

続いては、遺産分割に関する変更点をお話しします。そもそも遺産分割とは、どのようなものなのでしょうか?

遺産分割とは、被相続人(=亡くなった方)が遺言(=財産について誰に何を承継させるか記録に残すこと)を残さずに死亡した場合に、それぞれの相続人(財産を受け継ぐ方)の話し合いによって具体的に分配していくことを言います。

よく相続が発生した際に、残された家族同士が揉めるといったケースがありますが、「私は不動産が欲しい!」とか「私は現金が欲しい!」など、要するにこの遺産分割で揉めているのです。

そんな遺産分割ですが、今回の法改正では、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、遺言で妻へ贈与の意思を示せば自宅は遺産分割の対象から外れることになります。自宅はまず妻のものとなり、残りの現預金や不動産などの財産を相続人で分けます。

つまり、実質的に配偶者の取り分は増えることになります。

こちらも先ほどの事例を使って法改正の前と後でどのように変わるのか見ていきましょう。


〜遺産分割の変更による相続事例〜

  • 家族構成:夫、妻、長男、長女の4人家族
  • 亡くなった方:夫
  • 財産を相続する方々:妻、長男、長女
  • 夫が残した財産:マンション2000万円、貯金3000万円の合計5000万円
    ※夫が亡くなるまで家族4人で2000万円のマンションで暮らしていました
    ※夫と妻の婚姻期間は20年以上とします

◆従来の相続(法律の按分に即した場合)

  • 妻:マンション 2000 万円、貯金 500 万円の合計2500 万円
  • 長男:貯金 1250 万円
  • 長女:貯金 1250 万円

◆法改正後、夫が遺言で妻へマンションを譲ると書いた時の相続(法律の按分に即した場合)

  • 妻:マンション2000万円、貯金1500万円の合計2500万円
  • 長男:貯金750万円
  • 長女:貯金750万円

いかがですか?法改正後にこの遺産分割の制度を利用すれば、妻の取り分が大幅に増えるのです。結婚生活を長く続ければこんなお得な特典があるのですね。

離婚が多い昨今の日本社会ですが、夫婦円満で暮らし続けることは、このような経済的なメリットもあるのです。この遺産分割の変更は、4つのポイント①で紹介した「配偶者居住権の創設」と同様に、相手に先立たれて残された配偶者を保護する内容となっています。

法改正③ 遺言に関する変更

3つ目は遺言に関する変更についてです。

先ほど簡単に触れましたが、遺言とは、自分がこれまで築いてきた財産を自分の死後、誰に何を受け継がせるのか意思表示することを言います。

相続における遺言の存在は非常に大事で、この遺言が無いために残された家族間で争いが起きてしまう場合があります。つまり、遺言を残すことは、スムーズな相続を遂行する上で大事な役割を果たすのです。

ちなみに遺言には3つの種類があります。どんな種類の遺言があるのか、簡単に内容を見ておきましょう。

  • 自筆証書遺言
    自筆証書遺言とは、自分自身が自筆することによって遺言を残す方法です。
    自筆証書遺言には、遺言の内容に加えて、自筆した日付と自分の氏名を手書きで書き、押印する必要があります。
    自分で文字が書けて、押印ができる状態であれば、いつでも作成できるため、最も簡単でメジャーな遺言の方法となっています。
    ただし、作成するにあたっては、ちょっとした条件があり、年齢が15歳以上であることと、家庭裁判所の「検認」が必要になるなど、ルールに沿った正しい書き方をしないと無効になることもあるので注意が必要です。
  • 公正証書遺言
    公正証書遺言は、自筆証書遺言とは違って、遺言を残す人が公証役場というところに出向いて、公証人に遺言内容を伝え、公証人がその遺言内容に沿って遺言書を作成するといった方法です。
    つまり、遺言を残した人は自分で何かを書く必要は無く、口頭で公証人に内容を伝えるだけで良いので手間はかかりません。
    しかし、別途手数料が発生してしまいます。気になるお金ですが、これは遺言に残す財産の価値に比例して、手数料が増えていく仕組みになっていますので、お金持ちの方ほど手数料が高くなることになってしまいます。
  • 秘密証書遺言
    秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰に知られたくない場合に利用する遺言の方法です。
    自筆証書遺言と公正証書遺言の中間に位置するような方法で、遺言を残す人が自分で書いた遺言書を公正役場に持って行き、間違いなく本人のものである事を公証人に証明してもらうものです。

では、今回の法改正でこれらの遺言にどのような変更点があるのでしょうか。
実は3つの遺言方法のうち、自筆証書遺言についてのみ変更が発生します。主な変更点は以下の2つです。

①遺言の作成方法が少し楽になる

先ほど紹介しましたが、自筆証書遺言は偽装を防ぐため、内容と日付は必ず本人が書き、署名・押印することなどが法律で定められています。加えて、自筆証書遺言に添付するマンションや株や貯金等の財産の一覧を記した「財産目録」も自筆する必要がありました

財産の全てを正確に手書きで記すのは、思った以上に労力のいるものだと思います。万が一、誤字や脱字があれば、遺言が無効になるリスクがあるのです。一般的に遺言を作成する方は、大半が高齢者と推測できるので、確かに負担が大きいのかもしれません。

そこで、今回の法改正では、財産目録に記載する不動産の所在や面積、銀行預金の口座番号などは必ずしも自分自身で自筆する必要は無くなりました。これで、親族や第三者に作成してもらうことが可能になります。ちなみにパソコンでの作成でもOKとのことです。

ただし、第三者による作成が許されているのは、財産目録に限定されていますので、遺言の日付や誰に何を承継するか等の内容は引き続き、本人が手書きで残す必要があります。

②遺言の保管方法が少し楽になる

2点目は新たな保管方法が認められます。

今までは、自筆証書遺言は書いた本人が自分で保管するのが一般的でした。遺言を自分自身で保管する場合のリスクとして、いざ相続が発生した際に残された家族が遺言書を発見できないといったことがありました。意外に思われるかもしれませんが、このようなケースは結構あるのです。

遺言が発見されないリスクを少しでも軽減するために、今回の改正案では、公的機関である法務局で自筆証書遺言を保管できるようになります。相続が発生した際には「死亡届」という書類を法務局に提出する必要があり、法務局で遺言の保管と連携が取れれば、遺言書の存在を相続人全員に知らせることができるようになります。これで遺言の保管が少し楽になりますね。

法改正④ 相続対象者の範囲拡大

4つのポイントの最後は、財産を相続する対象者の範囲が拡大される点についてです。

相続人以外の親族が、被相続人の介護などをしていた場合、もともとその人に財産を相続する権利がなくても、介護などの貢献した分に応じて金銭を請求できることが可能になります。

法務省の見解としては、生前の親を介護していた、その親の息子の妻などを想定しているようです。つまり、妻からすると義理の父や母を介護などの世話をしていた場合に、相続発生時に相続財産の一部を請求できる権利になります。

現在の制度でも、これと似たものはありました。しかし、現行の対象者は、亡くなった方の法定相続人に限定されており、亡くなった親の息子の妻は対象外となっていました。

昨今は親の介護が深刻な社会問題となっていますので、このような制度を作ることにより介護のインセンティブを与えるといった感じでしょうか。額面通り受け止めると「お金が貰えるから介護をする」ということになりますので、一部からは制度新設が疑問視されているようですが、あなたはどう思いますか?いずれにせよ、日本の介護問題に対応した法改正となっていますが。

民法改正4つのポイントのおさらい

これまで不動産相続に関連する民法改正の4つのポイントをみてきました。これらをおさらいすると、

  • 配偶者居住権の創設
    →残された配偶者の保護
  • 遺産分割に関する変更
    →残された配偶者の保護
  • 遺言に関する変更
    →遺言の作成・保管が少し便利になる
  • 相続人の範囲の拡大
    →義理の両親を介護するとお金がもらえる

といったものです。実際にこれらの民法が改正されるのは2020年頃を目途としているようです。

「相続が争族にならないように」これは相続に対する心構えとしてよく使われるフレーズです。相続というものは、命が有限である以上、必ずあなた自身にも降りかかってきます。

相続の仕組みを勉強して、しっかりと準備を行う事はもちろん重要ですが、日頃からコミュニケーションを取って良好な家族関係を構築していくことが一番の相続対策であることは間違いありません。