「空き家対策特別措置法」という言葉を耳にしたことはありますか。施設に入る高齢者や新築住宅の増加、人口の減少などさまざまな原因から空き家が増えてきています。
増え続ける空き家に対策を講じるために制定された空き家対策特別措置法について、詳しく解説します。現在、空き家に悩んでいる方だけでなく、これから空き家問題に直面する方も知っておきたい情報です。
空き家対策特別措置法は、どんな法律か
「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称:空家等対策特別措置法)は、2014年11月に国会で成立した法律です。空き家対策特別措置法では、行政側が空き家の管理・処分をおこなえると定められています。ここでいる管理・処分とは以下の内容を指します。
・空き家の状態や様子を調査する
・空き家の所有者への指導をおこなう
・空き家跡地を活用できるよう推し進める
・適切に管理されていないと判断した空き家を「特定空き家」に指定する
・特定空家に対する、助言・指導・勧告・命令が可能
・特定空家に対して罰金や行政代執行をおこなう
空き家対策特別措置法が設定される以前は、各自治体が独自に定めた条例で対策がおこなわれていました。そのため、法的な拘束力はなく、あくまでも最終的な決定権は所有者にありました。
空き家対策特別措置法が制定されたことにより、行政は空き家の場所や所有者などを把握したり、空き家に立ち入り調査したりできるようになったのです。
特定空き家と空き家の違いとは?
国土交通省では「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地をいう。」を空き家と定義しています。
空き家対策特別措置法では、適切に管理されていないと判断された空き家は「特定空き家」に指定されます。特定空き家の定義は以下の4つです。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
空き家のうち、そのまま放置すれば倒壊の恐れがある、衛生上の問題がある、周囲の景観をそこなう恐れがある空き家を特定空き家に定めています。
特定空き家は固定資産税の「住宅用地の特例措置」の対象外になる
空き家を特定空き家に指定されるとどのようなデメリットがあるのでしょう。特定空き家に指定されて自治体から勧告をうけてしまうと、「住宅用地の特例措置」が適用されなくなってしまいます。
「住宅用地の特例措置」は、人が居住するための家屋の敷地として利用されている土地は、固定資産税が最大6分の1、都市計画税が最大3分の1に軽減されるものです。特定空き家に指定されると固定資産税が増額されてしまいます。
特定空き家に指定されるまでの流れ
空き家特別対策特別措置法で、特定空き家に指定されるまでの流れを確認しておきましょう。
特定空き家の指定に重要な要素となるのが、近隣住人にあたえる影響です。特定空き家に指定されるまでには、自治体からの指導や命令などの手順を踏む必要があります。
1.空き家がある市町村から助言、指導、勧告をうける
空き家が特定空き家に指定されるには、まず空き家の周辺の住人からの苦情や通報が必要です。
苦情や通報を受けた市町村が、特定空き家の基準に当てはまっているかの調査をおこないます。特定空き家に指定される可能性が高いと判断された場合のみ、空き家の所有者に連絡がいきます。
空き家の所有者には、市町村からどのように空き家対策をおこなえばいいかのアドバイスがおこなわれます。行政からの助言は、法的な拘束力はもちません。しかし、助言に従わなかったり、周囲の住人からの苦情が増えてきたりすると、強く改善を求める指導がおこなわれます。
指導にも従わない場合や対応の仕方がわからず、そのまま放置してしまった場合には、市町村からの勧告を受けます。勧告を受けると、住宅用地の特例措置の対象外になります。
2.市町村から改善命令を受ける
市町村からの勧告にも従わない場合、行政処分に値する「改善命令」がだされます。
改善命令に従わない場合、空き家等対策の推進に関する特別措置法第16条にもとづいて50万円以下の罰金が科されます。
3.行政代執行がおこなわれる
改善命令にも従わない場合、行政代執行がおこなわれます。行政代執行は、所有者にかわって行政が適切な管理のための対策をおこなうことです。
行政代執行にかかった費用はすべて所有者に請求されます。行政代執行に必要な費用はすべて税金からまかなわれています。
費用を払わないでそのままにしておくと、税金滞納と同じ扱いをうけることになります。不動産や車、貴重品などを差し押さえて公売にかけて税金の回収がおこなわれます。
空き家が特定空き家に指定されるかの基準
空き家が特定空き家に指定されるかどうかは、「周辺住民に悪影響を及ぼす可能性があるか」が大きなポイントになります。
特定空き家と指定される基準について確認しておきましょう。
1.倒壊する恐れがある
倒壊の恐れがある空き家は、特定空き家に指定される可能性があります。倒壊の危険性が高い状態は、以下のものをいいます。
・家屋の屋根や壁などが崩れたり、はがれたりする恐れがある
・扉や窓が、家屋のゆがみやかたむきにより、開け閉めが難しい状態にある
・耐震性が基準を下回っている。小さな地震でも倒壊の恐れがある
・雪の重みに耐えられず、家が傾いている
・台風や嵐などの自然災害で、屋根の瓦が飛んでしまったことがある
住宅の倒壊は、家全体が倒壊するものだけが危険性をともなうわけではありません。
剥がれ落ちた家の一部が、通行人を直撃したり、電線を切ったりしてしまう可能性も考えられます。
一部のみの崩壊と安易に考えず、対策をおこなうようにしましょう。
2.衛生面で問題がある
そのまま放置してしまうと、周辺の住人の健康をおびやかす恐れがあるものも、特定空き家に指定される場合があります。周囲に影響を及ぼすほどの衛生面の問題は以下のものを指します。
・有害な臭いを放っている
・害虫やネズミなどが繁殖している
・建物に使用されているアスベストがさらされている
・浄化槽が放置されている
・汚物が外へ流れ出てしまっている
不法投棄や放置されたゴミにネズミや蚊、ハエなどが発生し、ゴミを餌に繁殖していきます。
ゴミは早めに片づけるようにしましょう。
3.街の景観をそこなう恐れがある
周辺にゴミが散乱していたり、外壁にラクガキが見られたりする物件も街の景観を損なうとして、特定空き家に指定される可能性があります。
近所に管理のされていない空き家があると、周辺の環境も悪くなってしまいます。空き家がたまり場になったり、不法投棄をされたりと犯罪の温床になる場合も。
周辺の環境に悪影響を及ぼさないためにも、空き家は放置せずに対策をおこないましょう。
空き家対策特別措置法で特定空き家に指定されないために
空き家対策特別措置法で、所有している空き家が特定空き家に指定されると指導、助言に従って改善をおこなわなくてはなりません。
特定空き家に指定されないために、所有者ができる対策をおこなっておきましょう。
1.空き家をきちんと管理する
現状は空き家であっても、いずれ使用したいと考えている場合は、定期的に掃除や草むしりなどをおこない、空き家を清潔に保つようにしましょう。
遠方に住んでいて、ひんぱんに空き家に足を運べない場合は、空き家巡回サービスや清掃サービスを利用するのもおすすめです。
2.空き家を売却、貸し出しする
空き家を利用する予定がない、相続人が複数いる場合は、売却してしまうのもひとつの方法です。
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売れば、空き家であれば譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。
また、売却以外にも賃貸として貸し出す方法もあります。いずれの方法も、方針を決めるために不動産会社に査定を依頼するようにしましょう。
空き家対策特別措置法の基準や流れを知って、空き家の売却や貸し出しを考えよう
2014年に制定された空き家対策特別措置法で、特定空き家に指定されると行政の指導に従って改善や処分をおこなわなくてはなりません。
特定空き家に指定されると固定資産税が高くなったり、不動産を差し押さえられたりする可能性もあります。
空き家は、そのまま放置せずに管理をして、売却や賃貸も考えましょう。まずは、土地や建物の価値を把握してから方針を決めると良いです。