映画やテレビドラマでは、土地の権利書を巡る人々の争いが描かれることが珍しくありません。しかし、実際には「土地の権利書」と称する書類は存在しませんし、権利書そのものを持つ人に土地の所有権があるわけでもありません。
土地の所有者を示す実在の書類は「登記済証」であり、俗称として権利書と呼ばれます。また、現在は不動産登記のオンライン化が進んでおり、「登記識別情報」も権利書に該当します。
土地権利書(登記済証・登記識別情報)は登記名義人を示すもの
土地の権利書とも呼ばれる登記済証・登記識別情報は登記名義人を表示するものです。所有者のほか、地上権者や抵当権設定者も登記名義人として記載されます。
ただし、実際の権利者と登記名義人が一致するとは限りません。日本の不動産登記には公信力がない、つまり「登記名義人は本当の権利者ですよ」と保証されないのです。
不動産登記には公信力がないものの公示力はあり、第三者に対抗するために必要です。たとえば、甲土地の本当の所有者Aが、税逃れ目的でBを登記名義人にし、Bが無関係の第三者Cに甲土地を売ったとします。このケースでCは「私は権利書を見てBさんが甲土地の所有者だと信じた」と主張し、実際に甲土地を購入できます。
以前は「土地の登記済証」が権利書と呼ばれていた
不動産登記とは、土地や建物の権利が変動した際に、その事実を公的な登記簿に記載することです。わかりやすい例としては、土地を売買したり親から子へ土地が相続されたりした場合は、所有権が変わったことを登記します。ただし、当事者間では登記がなくても合意のみで取引が成立します。
登記所(法務局)で土地を登記した者には、登記官から登記済証が交付されました。土地の権利が記載されるため、登記済証を権利書と呼ぶことが多かったのです。
土地の権利書はオンライン化で「登記識別情報」へ
2005年3月7日以降は登記所がオンライン庁と称されるようになり、登記済証ではなく登記識別情報が登記者に交付されることとなりました。つまり現在は登記識別情報が土地の権利書に該当しますが、登記が行われた事実のみを知らせるものとして登記完了証も交付されます。
登記識別情報は数字とアルファベットで構成される12桁の符号、つまりパスワードに似たものです。このパスワードを知っている人が土地の登記人と判断され、権利書の所持者と同様に扱われます。ただし、権利書は本人確認書類の一つに過ぎず、登記には印鑑証明書等も必要です。
権利書自体に土地の所有権が付随するわけではない
土地の権利書、つまり登記済証または登記識別情報は「登記名義人」を示すもので、それ自体に土地の所有権は付随していません。少し複雑ですが、たとえば権利書を盗んだ人が登記所で「自分はこの土地の所有者だ。土地を売却したので登記したい」と言っても、本人確認書類がなければ拒否されます。
仮に盗人が精巧な本人確認書類や印鑑証明書を偽造して登記を行ったとしても、そもそも違法行為なので、事情を知らない第三者に土地が譲渡されない限りは無効となります。また、現在は登記識別情報によるオンライン申請には電子署名が求められるため、本人確認書類の偽造は困難です。
土地の権利書はどうやって取得する?
土地の権利書である登記済証または登記識別情報は、法務局で登記を行った人に対して交付されるものです。つまり土地を売買により取得した所有権を登記していれば既に交付されていますので、自ら取得する必要はありません。
登記済証は不動産取得時に登記所で交付された
土地・建物の登記は義務ではありませんが、第三者に対する公示力を持つため通常は実際の権利者が登記されます。特に不動産会社を介して土地を売買した場合は、登記が行われないとは考えられません。土地の売買・相続は所有権移転登記を伴い、新たな所有者が登記名義人となります。
2005年3月7日までは、土地の所有権移転登記を行うと、新しい登記名義人に登記所の窓口または郵送で登記済証が交付されました。土地の登記済証は権利書とも呼ばれますが、先に述べたように本人確認書類の一つに過ぎませんから、権利書自体が土地の所有権を示すものではありません。
登記識別情報は希望者に対し送付される
登記識別情報も登記済証と同じく、2005年3月7日以降に登記所で登記を行った場合は窓口・郵送で交付されます。不動産と登記名義人の情報および登記識別情報が記載されたシンプルな用紙です。ただし、登記時に「登記識別情報の通知を希望しない」と書面で申し出れば、登記識別情報は交付されません。
オンラインで登記申請を行うと、書面ではなくインターネットで暗号化された登記識別情報が登記名義人に送信されます。もっとも、実際には一部の手続きのみオンラインで行う方式が主流であり、登記名義人には従来と同じく書面で登記識別情報が交付されることがほとんどです。
土地権利書を紛失しても再発行できる?
土地の権利書は登記済証・登記識別情報ともに、登記時のみに発行されるものです。そのため、紛失しても再発行してもらうことはできません。ただ、繰り返しになりますが土地の権利書自体に所有権はありませんから、登記済証・登記識別情報を紛失しても土地の所有権は失われません。
土地権利書が盗まれたら無効にすることが可能
土地の権利書が盗まれても、他の本人確認書類を添付して登記所に提出しなければ登記を行うことはできません。言い換えれば、免許証・マイナンバーカードや実印、印鑑登録証明書まで偽造された場合は、盗まれた土地の権利書により登記が行われてしまう危険性があります。
土地権利書の盗難・紛失時は、登記名義人本人または相続人が登記官に「不正登記防止申出」と「登記識別情報の失効の申出」をすることで権利書を無効にできます。ただ、無事に権利書を発見できても、司法書士による本人確認が必要です。
土地の売買と贈与の際に権利書が必要になる
土地の権利書である登記済証・登記識別情報それ自体に土地の所有権は付随しませんが、持つ人が登記名義人であると推認できます。よって不動産会社に土地売買の仲介を依頼する際は、権利書の提出が求められるケースがほとんどです。
土地を売却ではなく贈与、つまり無償で他者に譲る場合も、売買と同じく登記所に権利書を提出して登記する必要があります。なお、売買・贈与ともに登記済証・登記識別情報を紛失した際は、司法書士に依頼して本人確認を行わなければなりません。
土地を相続するなら権利書は不要
死亡した人(被相続人)が所有する土地を配偶者・子などの法定相続人が相続する場合は、権利書を登記所に提出する必要はありません。なぜなら権利書は土地所有者の本人確認書類であり、本人が死亡した場合は本人確認そのものを行えなくなるためです。
もっとも、土地相続の場合は権利書のかわりに戸籍謄本と住民票、遺産分割協議書など別種の書類が必要になるため、手続きが簡略化されるわけではありません。
土地権利書は登記に欠かせない!忘れずに準備しよう
権利書と呼ばれることが多い土地の登記済証・登記識別情報は、不動産登記をする際に必要な書類です。権利書自体に土地所有権はありませんが、登記名義人である証明として用いられます。紛失すると司法書士等に依頼する必要が生じるため、忘れずに保管してください。
土地を売買する機会は突然訪れるため、権利書の所在を確認して準備しておくことが大切です。