今回は売買契約の解除について詳しく解説をしていきたいと思います。
ここでは不動産の売買契約書に出てくる解除条項の種類と内容について解説していきたいと思います。加えて、せっかくの契約成立を振り出しに戻さない為の解除防止の対策なども紹介します。解除特約を事前にしっかりと理解して契約に臨みましょう。
契約解除の条件は売主に不利なものが多い
不動産業者を除いて、売主・買主が一般個人の売買契約の場合、基本的に契約内容は当事者間で自由に決めることができます。これは契約の解除に関する事項でも当てはまり、売主と買主の間で合意さえあれば、自由に解除条件を決めることができます。
しかし、自宅の売買のような特殊な事情が無い取引では、解除に関する事項はワンパターン化して決まっていることが多く、概ね買主にとって有利、売主にとって不利な内容になる傾向があります。
具体的には、「住宅ローン特約による解除」や「危険負担による解除」等が挙げられます。
特に「住宅ローン特約による解除」は、買主の解除理由として非常に多く、更に買主はペナルティ無しで解除できてしまうので、売主としては何としてでも避けたい解除条項になります。
不動産における売買契約の解除特約の代表10パターン
解除特約は、「売主・買主の事情に関わらず契約書に記載される解除特約」と「売主・買主の事情によって追加で契約書に記載される解除特約」の2つに分類することができます。
売主・買主の事情に関わらず契約書に記載される解除特約
①手付金による解除
②危険負担による解除
③瑕疵担保責任による解除
④契約違反による解除
⑤反社会的勢力排除による解除
売主・買主の事情によって追加で契約書に記載される解除特約
⑥住宅ローン特約による解除
⑦買い替え特約による解除
⑧制限行為能力者による解除
⑨クーリングオフによる解除
⑩借地権譲渡の不承認による解除(*借地権売買の場合)
1.手付金による解除
売買契約時に買主から売主へ支払った「手付金」を利用して解除する方法です。
売買契約書には下記のような条項が記載されます。
第○条(手付解除)
1
売主、買主は、本契約を表記手付解除期日までであれば、互いに書面により通知して、解除することができる。
2
売主が前項により本契約を解除するときは、売主は、買主に対し、手付金等受領済みの金員を無利息にて返還し、かつ手付金と同額の金員を支払わなければならない。買主が前項により本契約を解除するときは、買主は、売主に対し、支払い済みの手付金の返還請求を放棄する。
不動産の売買では、契約時に物件価格の5%~10%程度を手付金として支払い、決済時(引渡し)に残りの代金を支払うことになります。ここでの手付金とは、「解約手付」という性質を持つことになります。
解約手付とは、契約の相手方が、手付解除期日(決済予定日より1週間~2週間前くらいが目安です)が到来する前であれば、買主は手付金を放棄することで、売主は買主から受け取った手付金と手付金の同額を買主に支払うことで、売買契約を解除することができるものです。
具体的に事例を参考に見てみましょう。
手付金による解除の事例
ー売買契約の内容ー
物件価格:3,000万円
手付金:300万円
売買契約日:2018年8月1日
決済(引渡し)予定日:2018年10月1日
手付解除期日:2018年9月20日
<買主から手付解除する場合>
2018年9月20日(手付解除期日)までに既に支払った手付金300万円を放棄すれば売買契約を解除することができる。
<売主から手付解除する場合>
2018年9月20日(手付解除期日)までに既に受け取った手付金300万円+手付金の同額300万円を合わせた600万円を買主へ支払うことで売買契約を解除することができる。
このように手付金による解除をしてしまうと、巨額のお金を損してしまうことになります。
手付金による解除は、買主から解除するケースがほとんどです。売主から手付解除することはあまり多くありません。
手付解除による損失を防ぐ為にも、売買契約の事前準備・計画はしっかりと行いましょう。
2.危険負担による解除
売買契約を締結してから引渡しまでの期間に不可抗力(地震や水害等の自然災害など)により物件が滅失して引渡しが不可能となった際、契約を解除できる特約です。
売買契約書には下記のような条項が記載されます。
第○条(危険負担)
1
本物件が、引渡完了前に天災地変その他、売主の責めに帰すことのできない理由により、滅失または毀損し買主が買い受けの目的を達することができなくなった場合は、次の各号の定めによる。
・滅失の場合、売主はすでに受領済みの金員の全額を買主に返還し、本契約は解除される。
・毀損の場合、売主は自己の負担で現況に回復し、買主に引き渡すものとする。
2
前項の場合、買主は売主に対し損害賠償の請求をすることはできない。
民法上では、原則、契約締結から引渡しまでに物件が滅失・毀損した場合は買主の負担となるように定められています。しかし、不動産の売買取引では、買主保護の観点から民法とは真逆で、危険負担は売主が負う内容になっています。
危険負担の期間中に地震による倒壊で物件が滅失した場合は、売主は手付金を買主へ返還して契約は解除されます。一方で物件の部分的な毀損に留まった場合は、売主の自己負担で修復して買主へ引き渡す必要があります。不可抗力による物件の滅失・毀損はめったに起こる事ではありませんが、不動産売買の慣習では売主に不利な内容となっています。
3.瑕疵担保責任による解除
瑕疵担保責任とは、物件の引渡し後、その物件に「隠れた瑕疵」が発見された場合に売主が買主に対して修復の義務を負うものです。瑕疵の内容によっては、契約の解除に加え、買主に対して損害賠償を負うケースもあります。
売買契約書には下記のような条項が記載されます。
第○条(瑕疵の責任)
1
売主は買主に対し、土地の隠れたる瑕疵及び次の建物の隠れたる瑕疵について責任を負う。
・雨漏り
・シロアリの被害
・建物構造上主要な部分の木部の腐食
・給排水管の故障
2
売主は買主に対し、前項の瑕疵について、引渡し完了日から3ヶ月以内に請求を受けたものに限り責任を負う。
3
買主は売主に対し、第1項の隠れた瑕疵により、本契約を締結した目的を達成できない場合は、引渡し完了日から3ヶ月以内に限り契約を解除することができる。
瑕疵担保責任を簡潔に説明
① 売買物件に隠れた瑕疵があること。
※「隠れた瑕疵」とは、売主・買主が注意しても発見できなかった欠陥です。
② 買主から売主への責任追及は物件の修復と損害賠償が基本。ただし、瑕疵の内容が重大な場合は契約解除もありえる。
③ 買主が売主に対して責任を追及できるのは物件引渡しから3ヶ月以内が基本。ただし、個人間の売買取引では、期間を自由に決めることができます。売主が不動産業者の場合は、宅地建物取引業法により、物件引渡しから最低2年間以上の期間を設ける必要があります。
④ 売主の故意や過失に関係なく、売主は責任を負うことになります。いわゆる無過失責任です。
買主による瑕疵担保責任の解除を防ぐには、売主は売却物件で知っている欠陥部分は全てオープンにして買主へ伝えてしまうことです。
なぜなら、買主が事前に知っていた物件の欠陥については、瑕疵担保責任の範囲外になるからです。
また、どうしても売主の方で瑕疵担保責任を負いたくない場合は、「瑕疵担保免責特約」を付けましょう。
この特約はその名の通り売主の瑕疵担保責任を負わないようにする特約です。
特約第○条(瑕疵担保免責)
第○条にかかわらず、売主は、本物件についての引渡し後の隠れたる瑕疵については、一切担保責任を負わないものとする。
ただし、瑕疵担保責任免責の特約は、売主に一方的に有利な為、買主の同意を得られるのが難しいです。瑕疵担保責任は、契約の解除に加え、非常に高額な損害賠償が発生することもあるので、契約書に書かれた内容をしっかりと確認しておきましょう。
4.契約違反による解除
こちらはその名の通り、契約書に定めた内容に違反した場合、契約解除となる条項です。
第○条(契約違反による解除・違約金)
売主、買主は相手方が本契約にかかる債務の履行を怠ったとき、その相手方に対し、書面により債務の履行を催告したうえで、本契約を解除して違約金の支払いを請求することができる。
ここでの「債務の履行を怠る」とは、買主であれば売買代金を支払わない、売主であれば物件を引き渡さない等が挙げられます。
契約違反による解除をするには、事前に相手方に対して催告をする必要があります。催告したにも関わらず、相手方が債務を履行しない場合は最終的に契約解除となります。
ちなみに契約違反による違約金ですが、こちらの金額は損害賠償の予定額として契約書に明記されることになります。個人間の売買では、違約金の額を自由に決めることができますが、おおよそ物件価格の20%前後にしているケースがほとんどです。
5.反社会的勢力排除による解除
売買契約の当事者が反社会的勢力に該当、または関係していた場合に契約解除できる条項です。
現在は、大手不動産会社を中心に反社会的勢力に該当するか否かを判断するデータベースを所有しており、反社会的勢力が売買取引に関わらないよう対策が打たれています。
ですので、仮に買主または売主が反社会的勢力に該当していたとしても、契約以前に不動産会社が取引を中止するので、実際に契約後に「反社会的勢力排除による解除」が適用されることは滅多にありません。
しかし、万が一のケースもありますので、相手方が反社会的勢力だと判明した場合は、冷静に行動し、不動産会社を通して警察に連絡するようにしましょう。
6.住宅ローン特約による解除
買主が住宅ローンを組む前提で売買契約を締結したにも関わらず、住宅ローンの審査に落ちてしまった場合に契約を解除できる条項です。
第○条(融資利用の特約)
1
融資承認取得期日までに、融資の全部または一部の金額につき承認が得られないとき、または否認されたとき、買主は、売主に対し、契約解除期日までであれば、本契約を解除することができる。
2
前項により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還する。
冒頭でも軽く触れましたが、住宅ローン特約による解除は売主に不利な内容となっています。
一般個人の買主が住宅ローンを組む場合は、このローン特約は必ず契約書に定められることになります。
ローン特約のポイントは、買主は違約金などのペナルティ無しで売買契約を解除できるということです。
売主からすると、住宅ローンの審査が通らないのは、買主が原因(ほとんどが買主の経済的状況を理由に審査が落ちます)なのだから、何とか工面して物件代金を払ってほしいと思うものです。
しかし、実際の売買契約では、買主保護の観点が強いので、このローン特約は避けて通れません。
少しでも買主のローン特約を回避するための対策はありますので、後ほど詳細をご紹介します。
7.買い替え特約による解除
買い替え特約も買主に有利な特約です。買い替え特約は、買主が自宅の買い替えを前提に新居の売買契約を締結するとき、ある一定の期間内に前自宅が指定する価格で売却できなかった場合、新居の売買契約を白紙解除にできるものです。
第○条(買い替え特約)
買主は○月○日までに○○万円以上で買主所有の○○○物件を売却できなかったときは、本契約を白紙解除できる。
上記条項の通り、買主にとっては「買い替え特約」を契約書に定めておけば、一定期間購入する物件を押さえることができ、かつ、万が一、期日までに希望価格で自宅を売却できない時はペナルティ無しで売買契約を解除できる特約です。
一方で売主にとっては、契約の白紙解除のリスクを伴った状態で、買主の前自宅の売却活動を見守ることになりますので、メリットは無い不利な特約となります。
この買い替え特約も売主の合意を得てはじめて契約書に定めることができますので、買い替え特約の「行使できる期限」と「売却価格」が実現性のある内容なのか、しっかりと確認することが大切です。
8.制限行為能力者による解除
契約の相手方が「制限行為能力者」に該当したときに契約解除となる場合があります。制限行為能力者とは、「本人単独では不動産売買などの法律行為ができない人」のことをいいます。
ここでは不動産取引の事例で多い、制限行為能力者の中の「成年被後見人」について解説していきます。
相手が成年被後見人の場合
成年被後見人とは、判断能力が低下した認知症の高齢者などをいいます。
不動産の売買取引では、様々な法律が関係したり、専門用語も難しいものが多いので、認知症の高齢者には厳しいものがあります。
そこで、成年被後見人の法律行為を補助する成年後見人を通して家庭裁判所から「成年被後見人の自宅を売却しても問題ない」という許可を得られなければ、売買契約は解除されることになります。
もし、売買取引の相手方が高齢者で判断能力が怪しいなと感じたら、成年被後見人などの制限行為能力者に該当していないか確認しましょう。
仮に成年被後見人に該当していた場合は、かなり手間はかかってしまいますが、成年後見人を通して家庭裁判所からの許可を得てから売買契約を締結するようにしましょう。
9.クーリング・オフによる解除
不動産の売買取引もクーリング・オフ制度の対象となります。クーリング・オフとは、簡単に言えば、契約を解除できる権利のことです。高額取引となる不動産売買に失敗は許されません。
売買契約締結後、ある一定の期間に売買契約を解除できるクーリング・オフは自らのお金を護るための有効な制度ではあります。ただし、クーリング・オフの権利を主張するには下記の条件に全て該当しなければなりません。
<クーリング・オフ適用の条件>
① 売主が宅地建物取引業者、買主が一般人(一般消費者)であること
② 売買する目的物が宅地または建物であること
③ 売買契約を締結した場所が宅地建物取引士を設置すべき場所以外であること
※宅地建物取引士を設置すべき場所以外とは、買主の勤務先や自宅、喫茶店等です。
④売主の宅地建物取引業者からクーリング・オフについて説明を受けてから8日間以内であること。
※通常、クーリング・オフの説明は契約時に行います。
以上のようにクーリング・オフ制度は、一般個人間の売買取引では適用されないことになります。
新築の分譲マンションや戸建て、リノベーション物件などの売主が宅地建物取引業者の場合にのみ、契約書にクーリング・オフが定められていますので、あらかじめ確認しておきましょう。
10.借地権譲渡の不承認による解除(※借地権売買のケースのみ)
借地権付きの建物を売買する時に出てくる特約が、「借地権譲渡の不承認による解除特約」です。
借地権とは、土地の所有者から土地を借りる権利のことです。
借地権付き建物の売買とは、「土地を借りる権利」+「建物の所有権」を売り買いすることです。
この借地権ですが、勝手に売却することはできません。借りている土地の所有者の承認を得る必要があります。
借地権譲渡の不承認による解除とは、万が一、土地の所有者が売主の借地権の売却を認めなかった場合、契約を解除できるというものです。
第○条(土地所有者の譲渡承諾)
1
売主は、本物件借地権を買主に譲渡することにつき、土地所有者の書面による承諾を取得しなければならない。なお、譲渡の承諾料は売主の負担とする。
2
前項の承諾が得られなかった場合、売主は、○月○日までであれば本契約を解除することができる。
3
前項により本契約が解除された場合、売主は、買主に受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還しなければならない。
上記条項の通り、借地権譲渡の承諾を得られなければ、売主・買主ともにペナルティ無しの白紙解除となります。
解除を防ぐ為にも借地権付きの建物を売買する際は、必ず土地所有者の承諾を確認した上で売買契約を締結しましょう。
住宅ローン特約による解除を防ぐ究極の対策
買主の住宅ローンの審査が問題なく通過できれば、住宅ローン特約による解除は発生しません。
その為には、売買契約を締結する前に必ず複数の金融機関で住宅ローンの事前審査を行い、事前審査を通過した最低3社の金融機関名と融資金額を契約書に明記するようにしましょう。
買主の経済状況に特段の変化がなければ、住宅ローンの事前審査が通過していれば、本審査もスムーズに通過するのが普通です。
ここでは、契約書に明記する住宅ローンの金融機関名を3社以上(3社以上であれば更に解除のリスクが下がります)とするところがポイントです。
<住宅ローン特約による解除の対策>
① 必ず!住宅ローンの事前審査の通過を確認した上で売買契約を締結する。
② 契約書に明記する住宅ローンを組む金融機関は3社以上にする。
③ 可能であれば、金融機関3社の内、1社は審査基準が易しい金融機関を選ぶ(ただし、審査基準が易しい分、ローン金利は高めになる)。
買い替え特約による解除を防ぐ究極の対策
買い替え特約による売却条件が、市場で売却しやすい条件であればあるほど、特約による解除を防ぐことができます。
買い替え特約は、買主は○月○日までに○○万円以上で買主所有の○○○物件を売却できなかったときは、本契約を白紙解除できる。というように契約書に明記されます。
ポイントは、上記条項に記載される売却金額に妥当性があるかということです。
例えば、市場の相場が5,000万円の物件にも関わらず、買い替え特約の条項に6,000万円と明記してしまえば、相場より高い売却価格で売り出すことになるので、期日までに売却できずに解除となる可能性は高くなります。
逆に相場より安い金額を明記すれば、すぐに買い手が見つかりやすい為、買い替え特約による解除を防ぐことができます。
<買い替え特約による解除の対策>
① 特約に明記される売却金額に妥当性があるか、相場と比較してみる。
② 少しでも売却しやすくするために相場価格より低い売却金額を条件とする。
(特約による解除を防ぐ為には、売却金額は低ければ低いほど良い)
まとめ
ここまで不動産売買契約における解除特約の種類と内容、そして、契約解除を防ぐための対策を見てきました。
おさらいとして、解除特約の種類をもう一度確認してみましょう。
① 手付金による解除
② 危険負担による解除
③ 瑕疵担保責任による解除
④ 契約違反による解除
⑤ 反社会的勢力排除による解除
⑥ 住宅ローン特約による解除
⑦ 買い替え特約による解除
⑧ 制限行為能力者による解除
⑨ クーリング・オフによる解除
⑩ 借地権譲渡の不承認による解除
※上記の他に売主・買主の合意さえあれば、独自の解除特約を設けることもできます。
繰り返しになりますが、契約解除は、「不可抗力により防ぐことのできない解除特約」と「対策次第で防ぐことができる解除特約」に分けることができます。
売買契約が成立するまでには、売主、買主、不動産会社すべてに多大な労力が掛かります。
せっかくの契約が解除によって、振り出しに戻らない為にも、解除特約の内容を理解し、不動産売買を成功して頂きたいと思います。