一般的に「耐用年数」とは、資産に値するものの消費期限的なことを意味し、工業用の機械・身近な資産ではパソコン、そして不動産にも設定されています。
土地と比べ建物は経年劣化するため減価償却資産と扱われます。鉄骨造マンションやアパート、戸建てなどは、資産価値として認められる税制上定められた期間のことです。不動産の耐用年数は、正式に「法定耐用年数」といわれています。
1)建造物の実際の寿命と考える耐用年数
建物として実際に利用できる耐用年数。つまり、物理的観点から見た建物の寿命年数です。寿命として考える耐用年数は、立地環境や使用状況、メンテナンスによって変動します。
住宅地域と沿岸地域の建物の寿命年数を比較すると、沿岸地域は潮風による風害などで建物の寿命年数は短くなります。構造や建材によっても寿命年数は変わってきます。鉄骨造であればメンテナンス次第で50~60年程度、木造でも国宝級の寺院のように手入れが行き届いていれば、100年程度もたせることは可能です。
2)税制上定められた建物の法定耐用年数
建物の寿命とは異なり、税制上に設定された建物の耐用年数。つまり、建物の減価償却資産として利用できる目安となるのが法定耐用年数です。
建物を資産価値として評価します。法定耐用年数は、建物の構造と建材の厚みを基準とし、住宅や事業用といった用途によって年数が定められています。
法定耐用年数は、新築物件購入時がスタート時点になり、中古物件の法定耐用年数は別途計算が必要になります。鉄骨造の法定耐用年数は34年、この期間は減価償却費用として計上できますが、34年を過ぎると価値が「0」になり計上できなくなります。
建物の構造別・法定耐用年数は?
建物の法定耐用年数は、構造や建材により異なり、それぞれ設定されています。
・木造・合成樹脂造:22年
・木骨モルタル造:20年
・れんが造・石造・ブロック造:38年
・鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造:47年
※1998年の税制改正で短縮されました。事業用途で使用している場合、法定耐用年数が短くなったことで資産価値「0」になる日が早まりました。
法定耐用年数と減価償却
鉄骨造マンションやアパート、戸建てに設定されている法定耐用年数は、減価償却を計上する場面に関係してきます。不動産建物のように長い時間をかけて減価償却されるものは、法定耐用年数に応じ耐用年数を算出し、複数年にわたり計上していきます。
【減価償却費用計算方法】
1)耐用年数=法定耐用年数 × 20%
※耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+ 経過年数 × 20%
(法定耐用年数を一部経過している中古物件)
2)減価償却費=取得価額 × 定額法償却率
※定額法償却率(毎年定額の償却率)=1 ÷ 耐用年数
(国税庁「減価償却資産の償却率表」参照)
計算ときの端数は切り捨て、1年未満は2年に切り上げます。
耐用年数が少なくなっている中古物件は住宅ローンが組めない?
法定耐用年数が住宅ローンの審査対象になることもあります。中古物件購入の場合、耐用年数が残り少なくなっている可能性が高いため、住宅ローンを組めないケースがあります。
金融機関によって審査基準は異なりますが、一般的な住宅ローンは物件が担保となるため、耐用年数が短くなった物件は、担保価値が低くなり審査に通過しにくいのです。中古物件を購入するときは、物件の耐用年数も確認するようにしましょう。
中古物件の耐用年数経過にはさまざまなリスクが発生する
法定耐用年数のスタートは、新築購入時から始めます。中古物件の場合は、法定耐用年数の一部が経過しているので、利用できる減価償却期間が短くなります。法定耐用年数を超えた物件は、さまざまなリスクが伴います。
ただし、建物のメンテナンスや利用状況により、耐用年数を延ばすことが可能です。また、中古物件の耐用年数の計算方法も異なります。
耐用年数経過のリスク1:中古物件売却が難しい
法定耐用年数を過ぎてしまった中古物件は、売却が難しくなります。法定耐用年数は税制上の基準ですが、実際の建物の劣化も進んでいます。
戸建てあれば劣化した家を解体し、更地にすれば有効な土地活用ができます。土地のみ売却する、駐車場などにして活用するなど利用方法を検討しましょう。マンションやアパートの場合は、大規模修繕工事の期間を再考するようにしましょう。
耐用年数経過のリスク2:税負担が増える
店舗や賃貸としてマンションやアパートを経営している場合は、税金の負担が増えます。法定耐用年数を超えてしまうと減価償却期間が終了します。
これまで減価償却費として計上していた分が、不動産などによる所得分に組み込まれ課税分が増えます。つまり、収入額は同じでも納税額だけが大きくなるということです。この負担のために物件を売却するオーナーもいます。
耐用年数経過のリスク3:不動産価値が下がる
法定耐用年数を超えてしまった中古物件は、不動産としての価値が下がります。そのため、住宅ローンが組みにくくなります。
返済期間の短い住宅ローンしか組めない可能性があります。金融機関の審査基準にもよりますが、住宅ローンの担保は、ほとんどが購入物件になるので、担保としての不動産価値が低いと審査を通過できないこともあります。
つまり、法定耐用年数は、住宅ローンの審査基準のひとつとして扱われます。
耐用年数を延ばす1:大規模修繕工事・メンテナンス
鉄骨・鉄筋コンクリート構造のマンションであれば、管理組合による定期的な検査・メンテナンス、大規模修繕工事を行うことで、建物の劣化スピードを遅らせられます。
つまり、設定された法定耐用年数が過ぎても、実際の耐用年数(寿命年数)は延ばすことが可能です。最近の建物は資材の性能も良いので、法定耐用年数を過ぎていても快適に暮らせているマンションも多数あります。
耐用年数を延ばす2:外部リスクの回避
地域や土地の特徴なども、建物の耐用年数(寿命年数)に大きく影響します。沿岸地域は潮風を受けやすく鉄骨の錆が発生し、南向きの地域は直射日光によりコンクリートのひび割れが起こりやすくなります。
これらも、定期的な検査とメンテナンスや修繕で劣化スピードを遅らせることは可能です。マンションなどの集合住宅は、個人でメンテナンスを行うのは難しいですが、管理組合で相談し、こまめに点検や修繕を行っていれば、法定耐用年数を気にすることなく快適に暮らせます。
鉄骨造の不動産売却・購入前に耐用年数で不動産の正しい価値を確認しよう
耐用年数は、不動産売買において、正しい価値を知るために必要な要素のひとつです。
店舗や賃貸として扱われている建物は、減価償却費用が計上できる期間としても重要です。
資産としては年々価値が下がっていきます。建物の資産としてどれくらいの価値があるか・利用できるかを基準設定したものが法定耐用年数です。法定耐用年数は税制上定められているので変えることはできませんが、建物の実際の耐用年数(寿命年数)はメンテナンス次第で延ばせます。
不動産売却・購入前、不動産会社に依頼する前に、耐用年数に応じた不動産の正しい価値を確認しましょう。