売却活動時に不動産会社から提出される「不動産査定書」。
わかるようでよくわからない内容が書かれていませんか?
売却活動の最初のステップである「不動産の価格査定」について、不動産会社から提示される査定報告書の見方や注意点などについて解説していきます。
不動産の売却活動を成功させるためには、過度に不動産会社を信用せず、売主自身も一定の知識を身に付けることが大切です。
ぜひ内容を参考にして、売却活動にお役立てください。
不動産会社が行う不動産の査定とは?:不動産会社が行う査定と不動産鑑定士が行う鑑定評価は全く違う
不動産の査定には、「不動産会社が行う査定」と「不動産鑑定士が行う鑑定評価」の2つに大別されます。
不動産業界以外の一般の方には、この2つがごちゃ混ぜになって勘違いされているケースが多いので、これらの違いについて一度整理しておきましょう。
鑑定評価と査定書の違い1.査定の精度・完成度が違う
不動産鑑定評価は、国家資格である「不動産鑑定士」のみができる独占業務です。
不動産鑑定士は国が定めるガイドラインに沿って、数多くの調査項目を、時間を掛けて調べることによって不動産の価格を導き出していきます。ですから、査定の精度や査定書の完成度はより高いものになります。
一方、不動産会社が行う査定は、特に資格は必要ありません。不動産鑑定士以外にも有名な不動産の国家資格として、「宅地建物取引士」というものがありますが、この資格が無くても査定をすることは可能です。
不動産鑑定士の査定が客観的事実に基づく査定に対して、不動産会社の査定は査定する担当者の主観の割合が大きくなるという特徴があります。
鑑定評価と査定書の違い1.費用が違う
通常、不動産会社の査定は無料で行ってくれます。これは特定の不動産会社に依頼した場合でも、一括査定サイトなどを通じて複数社に査定を依頼した場合でも同じです。
これには理由があって、仮に有料で査定をしてしまうと「不動産の鑑定評価に関する法律」に違反してしまうからです。
一方、不動産鑑定士の鑑定評価は、鑑定する不動産の状況にもよりますが、数十万円程度の料金が掛かることになります。
以上のように、「不動産会社が行う査定と不動産鑑定士が行う鑑定評価は違う」ということがお分かり頂けたかと思います。
不動産会社の査定は鑑定評価より査定価格の正確さは劣りますが、自宅を売却するときの査定で鑑定評価を利用する方はほとんどいません。
ここで認識しておきたいポイントは、「不動産会社の査定は無資格でも(誰でも)できるということを理解して、査定内容を過度に信用せず鵜呑みにしない」ということです。
「不動産のプロが言っていることだから大丈夫だろう」と不動産会社を過信してしまうと、結果的に不動産会社の都合の良いように利用されてしまう可能性があります。
不動産価格を計算する3つの方法~原価法・取引事例法・収益還元法~
不動産会社が行う代表的な査定価格の算出方法は3通りあります。
一戸建てやマンションなど不動産の種別によって算出方法が違っており、主に一戸建て(建物)なら原価法、マンションや土地なら取引事例比較法、投資用不動産なら収益還元法を利用して不動産価格を求めることになります。
- 原価法
原価法とは、対象となる不動産を査定評価する時点で再び建築した場合にいくら費用がかかるか(再調達原価)という基準で計算する方法です。
主に一戸建て(建物)の査定に活用されます。査定する不動産は査定時点より前に建築されているため、物理的に建物が老朽化していたり、設備面でも陳腐化したりするのが普通です。
原価法では、このような理由による価値の下落分(減価償却分)を再調達原価から差し引き、査定価格を求めます。
<原価法の計算式>
査定価格=再調達原価×建物の残耐用年数÷建物の耐用年数 - 取引事例比較法
取引事例比較法とは、査定対象の不動産と条件が類似している不動産の過去の販売事例や現在の売出し事例を参考に査定価格を算出する方法です。主にマンションや土地の査定に活用されます。
比較する時のポイントは、事情補正(売り急ぎや買い急ぎなどの特別な事情の排除)や時点修正(比較する不動産の取引時と対象不動産の査定時点のタイムラグの補正)を行い、次にエリア的要因や個別的要因(対象不動産特有の事情)を考慮して価格修正を行い、査定価格を求めます。 - 収益還元法 収益還元法とは、対象不動産の一定期間に生み出す純収益を期待する利回りで割り戻して不動産価格を求める方法です。
主に投資用マンションや投資用アパートの査定に活用されます。
例えば、1年間で1,000万円の純収益を生み出す賃貸アパートがあり、このアパートに対する一般的な期待利回りが10%であれば、このアパートの査定価格は1億円(1,000万円÷10%)となります。
<収益還元法の計算式>
査定価格=不動産の純収益÷期待利回り
不動産査定書に書かれている主な6つのこと
ここからは、不動産会社から提示される査定書にはどのような内容が記載されているのか具体的に見ていきたいと思います。
査定報告書の形式やデザインは不動産会社によって違いますが、おおむね次のような項目によって構成されています。
- 査定書に書かれていること(マンションの場合)
- 査定不動産の概要
査定対象の不動産の概要についてです。マンションの場合は、マンション全体(1棟)の概要と専有部分(1部屋)の概要に分けて書かれています。
<マンション全体の概要>
・マンション名
・所在地
・交通・アクセス
・建築年数
・構造
・階数
・総戸数<専有部分の概要>
・部屋番号
・所在階
・専有面積
・バルコニー面積
・間取り・方位 - 査定エリア近隣の成約・売出し事例
査定エリア近隣の過去の成約事例や現在の売出し事例が書かれています。
通常は、地図にプロットするかたちで事例が表示されることになります。2-2不動産価格を求める3つの方法でご紹介した通り、マンションの査定は「比較事例法」を活用することになりますので、ここに記載される成約事例や売出し事例と比較して、査定価格を求めることになります。
査定書のこの部分は、売主自身も不動産の相場感を身に付けることができる貴重な情報が載っていますので、近隣の不動産にどれくらいの値付けがされているのかチェックしておきましょう。 - 成約予想価格・売出し推奨価格
比較事例法を基に計算されたマンションの査定価格が書かれています。
実際の査定書には「査定価格」ではなく、「成約予想価格」や「売出し推奨価格」といった表現で書かれていることが多いです。
成約予想価格とは、仮にマンションを売りに出した場合、おおよそこれくらいの価格で成約できるであろうと不動産会社が予想した価格です。
通常は、「成約予想価格は○○万円」と金額を特定せず、「成約予想価格帯は○○万円~○○万円」と価格に幅を設けて提示されることになります。価格幅は価格の中央からだいたい5%くらいが目安です。
一方の売出し推奨価格ですが、これは実際に市場に売りに出すときの不動産会社が推奨する売出し価格のことです。
事情により早急に売却しなければならない場合を除けば、売出し推奨価格は成約予想価格より少し高めに値付けされます。
特に現在(2019年1月)のような不動産マーケットが好調な時期は、多少相場価格より高めに売りに出しても買い手の需要が強いため売却しやすい状態にあったりします。 - 査定した担当者のコメント
査定した不動産会社の担当者のコメントが書かれています。
具体的には、査定価格の根拠や査定した不動産の強みや弱みなどの特徴、売りに出した場合の販売戦略などが書かれています。
この担当者のコメントの箇所は査定書の中で一番重要な部分と言っても過言ではありません。
ここで書かれている内容が曖昧であったり、文章そのものが短く説得力に欠けている場合は、査定価格の妥当性を疑う必要があります。
特に不動産会社の担当者と直接面会せず、査定報告書のみのやりとりをする場合は、査定書に書かれていることが全てになるので意識してチェックしましょう。 - 売却活動のスケジュール
査定後の売却活動のスケジュールとして、媒介契約から売買契約、そして、決済までの流れについて書かれています。
査定を受けて、売却活動を依頼する不動産会社が決まったら、次はその不動産会社と媒介契約を締結することになります。
媒介契約とは、簡単に言うと、不動産会社の売却活動の内容を定めた契約のことです。
媒介契約の内容を含め、売却活動の全体の流れがどのように進むか確認しておきましょう。 - 売却に伴う諸費用
不動産の売却に伴ってかかる諸費用について書かれています。
不動産を売却するときには、不動産会社へ支払う仲介手数料や登記費用、加えて売却益が出た場合は譲渡所得税といった税金がかかることになります。
売却価格や不動産の状態によって諸費用の金額は変わりますが、おおよそ売却価格の4%~5%が目安となります。
「不動産が売れた価格=自分に入ってくる手取り金額」ではありませんので注意しましょう。
良い不動産査定書を見極める3つのポイント
査定書に記載されていること全てが正しいとは限りません。
不動産会社に騙されないためにもどのような箇所に注意すべきなのか見ていきたいと思います。
ここでは、不動産会社から提示された査定書が「信じて良い査定書なのかどうか」見極めるための3つのポイントを紹介したいと思います。
1.査定価格の根拠がしっかりと明記されているか
査定価格の根拠となる部分は査定書の中で一番重要な箇所です。
査定価格は不動産の種別に合わせて、原価法・比較事例法・収益還元法のいずれかをベースにして、物件の周辺環境や立地・交通アクセス、路線価などの地価公示、不動産マーケットの動向・需給環境などを総合的に判断して計算されることになります。
これらの中には、不動産に詳しくない一般の方にとっては、少し難しい専門用語なども出てきますが、査定価格の根拠の妥当性を確認する簡単な方法は、不動産会社の担当者に不明な点を全て質問してみることです。
きちんと査定した担当者であれば、一つ一つ丁寧に価格の理由について説明してくれます。
逆に、論理的な根拠が無く、「当社に任せて頂ければ売れます!」、とか「どこよりも高く売ってみせます!」など精神論ばかり強調してくる不動産会社には注意しましょう。
査定価格の根拠が納得のいくもので無ければ、いくら高額査定であっても意味がありません。むしろそのようなケースは、専任媒介契約を取るためだけの「おとり査定」の可能性があるので注意が必要です。
なお、一括査定サイトなどでは不動産会社が専任媒介契約を取るために故意に高額な査定を出してくるケースが多いので、利用する方はそのことを認識した上で活用されることをおすすめします。
詳しくは、不動産の査定について徹底解説~一括査定の注意点は?査定がバラバラだったら?〜【2024年最新版】~を参考にしてみてください。
2.適正な成約時期が明記されているか
仮に査定された価格で市場に売りに出した場合、どのくらいの期間で成約となるのか、その目安である成約時期が明記されているかどうかも大事なポイントです。
いくらしっかりとした根拠がある査定価格を提示されても、成約想定が「売り出してから1年以内」であれば、売却活動期間が長すぎるため適正な成約時期とは言えません。
通常、査定価格を含め査定書に記載されている内容の期限は査定時点から3ヶ月となっていますが、提示された査定価格は売出し後どれくらいの期間で成約できると想定しているのか不動産会社に必ず確認しておきましょう。
一つの目安として、適正な成約時期が明記されており、さらに「仮に想定する期間内に成約できなかった場合、どのような販売戦略でどれくらいの価格で再度売りに出せば、いつぐらいに成約できるのか?」といったところまで明確に答えることができる不動産会社であれば、任せても大丈夫でしょう。
特に住み替えに伴う自宅の売却では売却活動のスケジュール調整が重要になってくるので、適正な成約時期がしっかりと想定されているか確認することが重要です。
3.売却活動する上でリスク要因となるものが明記されているか
査定書を見極める3つ目のポイントは、不動産を売却する上で何かしらのリスク要因が明記されているかどうかです。
どんなに優良物件と言われるものであっても、一つや二つはその不動産の弱みとなるリスク要因があるものです。
逆に査定書に良いことばかりしか書かかれていない場合は、「不動産会社が査定をテキトーに行った」、もしくは「売主の気を惹くためにあえて悪い点を隠している」のどちらかなので注意が必要です。
リスク要因とは、不動産の立地や近隣施設などの周辺環境から売買の流動性、都市計画法や建築基準法等の法規制、土地形状、建物の築年数、日当たりや風通しに至るまで様々なものがあります。
程度の大きさに違いがあったとしても売却に伴うリスク要因が無い不動産は、ほぼ無いと事前に認識しておくことが大切です。
その上で、リスク要因をどのようにカバーしながら売却活動をしていくか明記されている査定書であれば、信用しても大丈夫でしょう。
まとめ:不動産会社の査定は「根拠」が重要。査定書の正しい見方を身につけよう
不動産の価格査定は、売却活動の入り口となる重要なステップです。多くの方が一括査定サイトを通じて査定依頼をされると思いますが、今回のコラムで取り上げた注意点やポイントは、一括査定でも十分に通用する内容となっています。
不動産会社に騙されないためにも過度に不動産会社を信用せず、売主自身も一定の知識やノウハウを習得することが大切です。