登記簿謄本の正式名称は登記事項全部証明書
登記事項証明書とは、土地・建物の所在地や所有者、大きさなどの登記情報が記載された公的書類です。不動産の相続・贈与や売買を行う時に必要となります。
よく耳にする「登記簿謄本」は、法務局が管理する登記記録(通称、登記簿)のコピー(謄本は原本を複写した文章という意味)を指します。現在は電子化が進み、電子データとして管理されている登記記録を証明書として発行したものを登記簿謄本と呼びますが、正式名称は「登記事項全部証明書」です。
本記事では、登記事項証明書に記載される内容や種類、取得方法について解説します。
登記事項証明書に記載される5つの内容
登記事項証明書(登記簿謄本)は複数ページに渡るため、よく見るべきポイントを5つ紹介します。
- 表題部
- 1-1. 表題部:土地の情報
- 1-2. 表題部:建物の概要
- 1-3. 表題部:分譲マンション特有の情報
- 権利部
- 2-1. 権利部(甲区):登記名義人の氏名や移転を記す
- 2-2. 権利部(乙区):抵当権や賃借権が記録される
それぞれについて簡単に説明します。
1-1. 表題部:土地の情報
表題部は不動産の住所や面積などの情報が記載されています。具体的には、土地の所在と地番、面積、構造、地目(土地の利用目的)が記されます。
所在と地番は、「住居表示」が実施された多くの地域では住所とは異なるため注意してください。また、地目とは田、山林、宅地などを指し、地目によって建設できる建物の種類が定められています。
なお、「第一種低層住居専用地域」や「工業地域」は用途地域であり、地目ではありません。
1-2. 表題部:建物の概要
土地の上に建物がある場合は、表題部に建物の情報も記載されます。建物も土地と同じく所在と構造が記載されますが、建物特有の記載事項として家屋番号、種類、床面積があります。
なお、ここで言う建物とは一戸建ての住宅や事業所等であり、集合住宅である分譲マンションは異なった表記法です。
家屋番号とは建物を識別するために付される番号で、種類は居宅や店舗など、主にどのような目的に使われる建物かを指します。同じ土地の上に複数の建物がある場合は、家屋番号に枝番を付けて区別されます。
1-3. 表題部:分譲マンション特有の情報
区分建物、いわゆる分譲マンションは通常の土地・建物の登記事項証明書とは異なる表題部を持っています。一つの土地と建物を複数の人物が区分所有するため、表題部を従来の登記事項証明書とは違った形式にしなければ権利関係を正確に記載できないためです。
まず建物全体と土地全体が、次に各専用部分の権利が記載されます。なお、5階建ての建物の3階にある部屋が「1階建」と記載されることがありますが、これは「部屋の高さは1階分である」ということです。つまり、仮に3階と4階にまたがる住戸があれば表記は「2階建」になります。
2-1. 権利部(甲区):登記名義人の氏名や移転を記す
登記事項証明書とは不動産取引に使う書類ですから、今までに登記された不動産所有者の氏名や移転の時期を示した権利部甲部は特に重要な箇所です。登記が行われるたびに付される順位番号、登記の目的、法務局で登記が受理された受付年月日と受付番号が記載されます。
「権利者その他の事項」欄には、売買など登記が行われた原因とその日付、そして登記した所有者の氏名と住所が記されます。
プライバシーの侵害になり得るとも考えられますが、登記事項証明書とは公正な不動産取引を行うための書類であり、性質上誰でも取得できます。
2-2. 権利部(乙区):抵当権や賃借権が記録される
登記事項証明書とは不動産の所有権のみならず付随する権利を証明します。
権利部乙区に記載されるのは、抵当権や賃借権、地上権などです。
抵当権とは住宅ローンなどの債務を返済できない時に不動産を差し押さえられる権利で、債権額、利率、債務者と抵当権設定者が記載されます。
賃借権は文字通り不動産の貸し借りを行う権利ですが、アパートを借りただけなど一般的な賃貸契約で登記されることは少なく、登記事項証明書とは無関係であることがほとんどです。
地上権は他人の土地の上に橋やトンネルを所有できる権利で、一般的な住宅の売買・賃貸契約で登記されるケースは稀です。
5種類ある登記事項証明書とは?
登記事項証明書とは、正確には登記簿謄本の内容を証明する5種類の書類の総称です。
- 全部事項証明書
- 現在事項証明書
- 一部事項証明書
- 閉鎖事項証明書
- 登記事項要約書
不動産を売買する場合は、全部事項証明書が必要な場合が多いです。分譲マンションは土地を複数の入居者で共有しているので、1部屋分の登記事項を証明したい場合は一部事項証明書を使用します。
また、レアケースですが電子化前の登記簿謄本を知りたい時は閉鎖事項証明書を使用します。
1. 最も重要な「全部事項証明書」
土地、一戸建てや事業所といった複数人での共有を前提としない建物の取引を行う場合は、全部事項証明書を使います。
登記事項証明書とは全部事項証明書とほぼ等しく、その土地・建物が最初に登記されてから現在までの登記情報が全て記載されたものです。不動産に関して最も正確な証明書と言えます。全部事項証明書は不動産の所有者以外でも取得可能です。
また、不動産という公的な資産の取引に使うため、権利部甲区には登記者の氏名・住所など詳細な個人情報や所有権の移転が記載されます。
ただし、古い登記情報は後述の閉鎖事項証明書にしか記載されていないことがあります。
2. 過去の不動産所有者のプライバシーも保護できる「現在事項証明書」
現在事項証明書は文字通り不動産の現状を証明するもので、過去の登記情報は記載されていません。
住宅ローンを契約すると土地・建物に抵当権が設定されますが、ローンを完済し抵当権が抹消されれば、現在事項証明書には抵当権が記載されません。
同様に、過去の所有者の記述も省略されます。全部事項証明書、つまり通常の登記事項証明書とは違ってシンプルで見やすく、過去の不動産所有者のプライバシーも保護できることがメリットです。
ただし、不動産取引では過去にどのような取引が行われたか証明する必要があるため、現在事項証明書は受け付けられない可能性があります。
3. 主にマンションで使われる「一部事項証明書」
分譲マンションなど区分所有建物では、一部事項証明書が全部事項証明書のかわりに用いられることがあります。なぜならマンションは一つの土地・建物を多くの人が共有する形態であり、全部事項証明書を取得すると全ての住戸の情報が記載されてしまう恐れがあるためです。
登記事項証明書とは全部事項証明書に等しいと前述しましたが、通常は分譲マンションに関する取引の場合は、一部事項証明書も受け付けられます。一つの専有部分、つまり一つの住戸の情報が記載された一部事項証明書を取得すれば、土地の持分も記載され、不動産取引の目的に適うからです。
以前は、登記簿抄本とも呼ばれていました。
4. トラブル対策に使われる「閉鎖事項証明書」
閉鎖事項証明書に記載されるのは現在しない登記情報、具体的には過去に取り壊された建物や、複数の土地を一つにまとめる合筆前の土地の情報です。通常の登記事項証明書とは異なる閉鎖事項証明書が使われるのは、有害物質を扱う施設の存在や、揉め事による土地の分割・合筆がないかを調べるトラブル対策です。
5. あまり使われていない「登記事項要約書」
発行日付や登記官の印がないため、登記事項要約書は法的効力がないメモに等しく、不動産取引で有効となる登記事項証明書とは区別されます。
例えば境界確定をしたい場合、隣接する土地所有者や、前面道路の所有者を特定することで立ち合いのお願いや手続きが進めるために利用されます。
登記事項証明書とは不動産取引に必須の書類!取得方法は?
登記事項証明書とは不動産取引に欠かせない書類であるため、取得は難しくありません。
ここまで解説したように、不動産の所有者以外の誰でも手数料さえ払えば取得できます。かつては平日の日中に法務局の窓口で申請する必要がありましたが、現在はオンライン申請も可能です。
これから行う不動産取引にどの証明書が必要かを確認し、取得申請を行ってください。
登記事項証明書とは住宅ローン契約時や不動産売買時に使うもの
登記事項証明書とは具体的にどういった不動産取引に必要とされるか説明します。
住居用不動産購入のために住宅ローンを契約した場合は、確定申告時に全部事項証明書または一部事項証明書を添付することで住宅ローン控除を適用可能です。
不動産売却時の取引相手への証明や、売買・相続・贈与による法務局での登記に登記事項証明書が求められます。
また、登記事項証明書とは第三者でも取得申請できる性質があるため、購入を希望する不動産の情報を事前に調べることも可能です。
法務局で請求することで取得できる
登記事項証明書とは法務局で申請し取得する書類で、手数料は1通600円です。
法務局は各都府県に1箇所ずつ、北海道には4箇所の本局があり、さらに支局・出張所が存在します。開庁日は平日のみで、業務取扱時間は午前8時30分から午後5時15分までの法務局がほとんどです。
なお、国が発行する書類やウェブサイト上の文章などで法務局を登記所と称することがありますが、登記法に基づく呼称であり、まったく同じ施設です。
自宅からのオンライン申請が便利!
パソコンを使える場合は、窓口に行かずオンラインで登記事項証明書を発行申請できます。ただし24時間受付ではなく、平日の8時30分から21時までしか申し込めないので注意してください。
窓口で申し込む登記事項証明書とは手数料額が違い、郵送なら500円、窓口に取りに行けば480円となります。
なお、登記事項証明書とは全ての人が取得できるものですから、身分証の添付は不要です。手数料はインターネットバンキングで納付できます。
登記事項証明書とは不動産の住民票!不動産取引前には必ずチェックしよう
登記事項証明書とは何かを一言で表現すれば、不動産にとっての住民票です。ある不動産が法律上確かに存在することを証明し、別の人物に対する引渡しが有効に行われるために必須の書類です。
日常生活の中で目にする頻度は少ないですが、不動産取引で必ず求められますから、取得方法を確認してください。既に不動産を所有している場合も、取引前に現在の権利関係を確認するため登記事項証明書のチェックをおすすめします。