ご実家や親族の家など、おそらく相続するであろう家の価値を事前に知っておくことは重要です。
複数人で相続する場合に揉めないように事前に話し合いをしたり、税金について事前に検討した方が良いでしょう。
ここでは不動産を相続する際にどのような流れになるのか、どんなことに注意すべきなのかを中心に基本的な知識を解説します。
2015年1月に相続税法が改正され基礎控除額が大幅に縮小された
これまで相続税問題は一部の富裕層だけが対象とされてきました。
しかし、この法改正以降、マイホームを含め都心に不動産を所有する方は決して他人事ではない状況になっています。
どういうことか具体的に述べると、2015年の相続税法改正による最も大きな変更点は基礎控除額が引き下げられたことです。
【改正前】
5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
【改正後】
3,000万円+600万円×法定相続人の数
これによって改正後に相続税の課税対象となるケースが大幅に増えました。
相続問題は複雑でとっつきにくい事柄でもありますが、全体の流れをしっかり把握して基本的な知識を持って臨むことが重要です。
相続が発生した場合の流れについて知る
- 相続人を把握する
亡くなった人を「被相続人」、被相続人の財産を承継する人を「相続人」と言います。
相続が発生したら、まずは相続人が誰であるか特定する必要があります。通常は、亡くなった人の配偶者や子供が相続人となります。 - 相続財産の把握
次のステップとして、相続する財産は何があるかを把握します。
相続する財産には、土地や建物などの不動産をはじめ、株式や現預金などが挙げられます。
日本においては、相続した財産の60%が不動産であるといった統計結果も出ており、不動産を相続する可能性は高くなっています。 - 基礎控除額の把握
相続財産を把握したら、次は基礎控除額がいくらになるか調べます。
詳細は後ほどご説明しますが、相続財産の評価額が基礎控除額の範囲内であれば相続税が発生することはありません。
この基礎控除額は法定相続人の人数により変わり、相続人が多いほど基礎控除額が大きくなります。 - 実務的な手続き内容の把握
相続人が複数いると、遺産分割協議を行う必要があります。
ここが相続手続きにおいての1番のヤマ場かもしれません。
遺産分割協議が纏まらないと相続税を少なくする軽減措置を受けられないこともあるので、慎重且つスムーズに協議を進める必要があります。
また、相続税を払う必要がある場合は相続発生後10ヶ月以内に相続税を支払う必要があります。
相続人が誰か把握する
ここからは上記のステップの中身について詳しく説明していきたいと思います。
まずは最初のステップとして誰が相続人なのかを調べる必要があります。
民法では法定相続人と呼ばれる人物を特定しており、法的に相続人が誰であるか決められています。
法定相続人には相続を受けられる権利の優先順位が決まっており、下記の様になっています。
〈常に相続人〉被相続人の配偶者
〈第1順位〉 被相続人の子供
〈第2順位〉 被相続人の両親
〈第3順位〉 被相続人の兄弟姉妹
また、相続人が誰で何人いるかによって相続できる割合が変わってきます。
いくつか事例を挙げて紹介します。
〈相続人が配偶者と子供1人の時〉
配偶者は相続財産の1/2
子供は相続財産の1/2
〈相続人が配偶者と子供3人の時〉
配偶者は相続財産の1/2
子供は1人あたり相続財産の1/6
〈相続人が配偶者と両親2人の時〉
配偶者は相続財産の2/3
両親は1人あたり1/6
〈相続人が配偶者と兄弟1人の時〉
配偶者は相続財産の3/4
兄弟は相続財産の1/4
以上のように相続人が誰かによって相続財産の配分に変化があることがご理解頂けたかと思います。
基本的に相続人は被相続人の血縁者なりますので、法定相続人を特定することは難しくありません。
相続する財産の価値を把握する
相続財産には不動産以外にも現金や預金、株式などが挙げられますが、それぞれどのような評価方法によって価値を算出するのでしょうか?
下記は相続する可能性が高い各種財産についての評価方法です。
〈現金〉額面そのまま評価
〈預金〉元本と利息で評価
〈保険〉受取保険金の金額で評価
〈株式、投資信託〉被相続人の亡くなった日の市場価格を基準に評価
以上のように、相続財産の評価額の算定は、その財産の時価がベースとなっています。
では、不動産の評価方法はどのようなやり方なのでしょうか?
基本的に土地は、路線価×土地面積、建物は固定資産税評価額によって求められます。
具体的に見ていきましょう。
土地の評価は路線価と土地面積で評価される
土地の相続税評価額は、基本的に路線価と土地面積を乗じた価格になります。
路線価は、毎年7月に国税庁が発表する路線価図を見れば簡単に知ることができます。
路線価は1年ごとに新しい価格が発表され、路線価図は国税庁のホームページに過去の分も併せてアップされています。
路線価は1㎡あたりの価格が千円単位で記載されており、例えば、相続した200㎡の土地の路線価が路線価図に「200C」と記載されていた場合は、200㎡×200千円で相続税評価額は4,000万円となります。
ちなみに路線価の最後にあるアルファベット(この事例では「C」)ですが、借地権割合を意味しています。
借地権割合は30%〜90%で定められており、Cは借地権割合は70%となります。
つまり、相続したものが土地の所有権ではなく、土地の借地権であれば、先程の条件だと、200㎡×200千円×70%となり、相続税評価額は2,800万円となります。
また、アパートなどの賃貸不動産の場合も借地権割合に応じて、評価額が減額されます。
100%所有する自用地を基準評価額とすれば、下記のような計算式になります。
貸宅地評価額=基準評価額 ×(1ー借地権割合)
貸家建付地評価額=基準評価額 ×(1ー借地権割合×借家権割合)
なお、相続した土地の接道や敷地形状により相続税評価額が増減される場合があります。
上記は、あくまで基本となる相続税評価額を計算する方法と思ってください。
建物は固定資産税評価額で評価される
建物の相続税評価額は固定資産税評価額を基準に算出されます。
固定資産税評価額は、毎年6月頃にお住いの区市町村役所から届く「固定資産税・都市計画税 納税通知書」に記載されています。
この固定資産税評価額は、総務省が定める固定資産評価基準がベースとなっており、建物面積、築年数に応じた償却年数、建物の構造やグレードを参考に算出されています。
ちなみにマンションの相続税評価額ですが、区分所有建物の計算方法によって算出します。
土地はマンション敷地全体の評価額に所有する土地の共有持分を掛けて価格を出します。
土地の共有持分は登記簿の敷地権割合のことです。
建物部分は先ほど紹介した方法と同様に固定資産税評価額を調べれば分かります。
基礎控除額を把握する
先に述べたように、相続税の基礎控除額は2015年の法改正により控除額が大幅に縮小されました。
ここでは基礎控除額の調べ方と税額軽減措置を中心に紹介します。
そもそも基礎控除額とは
基礎控除額とは、あらかじめ算出した相続税評価額から一定の金額を控除できる制度で、相続人の人数により控除額が変わります。
相続財産評価額がこの基礎控除額以下に収まれば相続税は課税されません。
逆に相続財産評価額が基礎控除額を上回れば、超過した分に各相続人の取得金額に応じた税率を乗じて相続税が課税されることになります。
それではその基礎控除額を計算する方法について解説していきます。
基礎控除額の計算方法
前述の通り、基礎控除額の計算式は下記の通りです。
3,000万円+600万円×相続人の人数
モデルケースを想定してシミュレーションしてみましょう。
〈基礎控除額計算の例〉
相続人が配偶者(妻)と子供2人(長男と長女)の場合
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
→基礎控除額は4,200万円
軽減措置の内容と条件を確認する
基礎控除額の他にも相続人や相続財産の取得方法によって、いろいろな軽減措置を受けられる場合があります。ここでは代表的なものをピックアップして紹介します。
配偶者控除
法定相続分に相当する金額、または1億6,000万円のどちらか大きい金額を控除できます。
未成年者控除
(20歳ー相続開始時の年齢)×10万円が控除されます。
障害者控除
(85歳ー相続開始時の年齢)×10万円が控除されます。
贈与税額控除
被相続人から、相続発生後3年以内に贈与を受けて、贈与税を既に支払っている場合、その贈与税額が控除されます。
相次相続控除
ある一定期間内に2回以上の相続が発生した場合、納付した相続税から一定額が控除されます。
外国税控除
海外の資産を相続して、その国で相続税が課せられた場合、二重課税にならないように一定額が控除されます。
このように様々な相続税を軽減できる制度がありますので、条件に自分が該当するか確認することも大事です。
実務的な手続きの内容を把握する
ここでは相続が発生した際に必要な実務的な手続きについて解説します。
単純承認・限定承認・相続放棄
相続開始(=被相続人が死亡した時)から3ヶ月以内に相続財産の単純承認・限定承認・相続放棄の何れかを選択しなければなりません。
被相続人が亡くなってから通夜、葬儀などで3ヶ月はあっという間に過ぎてしまうため、事前にそれぞれの概要をしっかり把握することが大切です。
単純承認
被相続人の金融資産や不動産などの財産だけでなく、借金などの債務も全て相続することです。相続するプラスの財産がマイナスの財産より多い場合は有効と言えるでしょう。相続開始後3ヶ月以内に限定承認、相続放棄をしなかった場合は、自動的にこの単純承認とみなされてしまいます。
限定承認
被相続人の金融資産や不動産などの財産価値の範囲内で債務を限定的に相続することです。
借金などのマイナスの財産がプラスの財産より多い場合やマイナスの財産がどれくらいの金額になるか不明であることに加えて、どうしても相続したい財産(例えば先祖代々の土地とかです)がある場合などは有効と言えるでしょう。
この限定承認は相続人全員の承認が必要であり、相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に申請する必要があります。
相続放棄
その名前の通り相続財産を全て放棄することを言います。
相続財産に特に思入れも無く明らかにマイナスの財産のほうが多い場合は相続放棄が有効です。
相続放棄は相続人単独でも可能であり家庭裁判所に申請する必要があります。
相続税の納付
最後は相続税の納付についてです。
控除額を上回る財産を相続した場合、相続開始を知った時から10ヶ月以内に相続税を支払う必要があります。
相続税の支払い方法ですが、現金による一括納付が原則です。
相続財産が多い場合は数百万、数千万円の支払いが必要となるケースもあります。
納付が遅れると延滞税の発生などペナルティもありますので注意が必要です。
どうしても10ヶ月以内に現金では納税できない場合は、不動産で代替する物納という方法もあります。
各々の事情によって最適な納税方法は違いますが、税務署は不動産評価額を時価では評価しませんし、いろいろと煩雑な手続きもありますので、あまり物納はおすすめしません。
不動産相続に関するまとめ
「不動産の相続」と聞くと大きく身構えてしまうかもしれませんが、全体の流れを把握してしっかり基礎的な知識を備えておくことが何より大事です。
また、可能であれば親族間の関係性を良好に保つためにも、相続人が健康なうちに準備を進めておくとよいでしょう。
身内に不幸が起こることを前提とした話題というのは気が進まないことと思いますが、永遠の命というものは存在せず遺族が争う姿を喜ぶ非相続人もいません。
大切な人が安心してこの世を去れるように、健康なうちに出来る範囲のご準備を進めておくことを強くおすすめします。