競売物件について
「競売物件」とは、裁判所に差し押さえられ、競売にかける物件のことです。
住宅ローンやそのほかの借り入れに対し返済不能になった場合、債務者が担保にしている物件を、債権者が返済の代わりに換金する目的で裁判所に申し立てます。裁判所がこの申し入れを受理し、裁判所の執行官と不動産鑑定士が対象物件の売却基準価額を査定し、情報が公開されます。
債務者には、内容証明郵便で競売開始決定通知が送られます。
競売物件と一般物件売買の違い
競売物件と一般物件は、購入に関する手続きに違いがあります。不動産屋が仲介に入る一般物件とは違い、競売物件は裁判所で手続きを行います。
購入価格はオークションのように入札形式で決められます。
- 入札手続き:物件を購入するため買受価格を決める
- 保証金納付:入札するために必要(売却基準価額の20%以上)
- 売却許可決定:裁判所から最高価格申出者に通知
- 所有権移転登記:裁判所が行いますが登録免許税は買受人が納付
次に、2つのメリットと3つのデメリットを説明します。
一般物件よりも競売物件を買う2つのメリット
メリット1. 多種多様な物件が多い
競売物件は裁判所を通すため、一般の不動産市場に出回っていない物件が多数あります。マンションや戸建て、アパート1棟など。住居用はもちろんですが、店舗やビル、土地など多岐にわたります。
築年数や構造など種類も豊富なので、特殊なニーズにも対応できる物件もあります。
メリット2. 一般物件よりも安く購入できる
市場価格よりも3割ほど安い価格の物件が多数出回っています。掘り出し物件であれば、一般価格よりも減額された価格でお得に手に入れられます。
競売物件の決定的な3つのデメリット
競売物件には「売主」が存在しないため、買主に与えられるいくつかの権利が制限されます。
デメリット1. 事前に内覧できない
写真や裁判所の書類でしか物件を確認できません。
デメリット2. 瑕疵担保責任がない(重要事項説明がない)
所有権が買主に移転後、物件に不具合があった場合、買主が自費で修理しなくてはなりません。電気周りや水回りに関しでも買主の判断により修理をします。つまり、通常ならば売主が買主に対して発生する瑕疵担保責任がありません。
デメリット3. 引き渡し義務がない
- 鍵の引き渡し
- 付帯設備について
- 隣家との境界線の確定確認
裁判所に対象物件の引き渡し義務はありません。そのため、売主・第三者の退去や残置物の撤去も買主の責任において行わなければなりません。
競売物件購入の流れ
競売物件購入の流れは、次のとおりです。
- 裁判所からの告示
- 物件明細の閲覧
- 入札準備・入札(保証金納付)
- 開札
- 売却許可決定
- 残金納付
- 所有権移転登記
情報の入手から手続きまで「買主主体」となるので、競売物件を手に入れるためには、流れや手段などの基礎知識を身につけることが必要です。
競売物件数は、その年の経済状況にも影響され、地域によっても変わってきます。人口の多い首都圏に多く、不景気時にも増加する傾向にあります。
競売物件の閲覧方法
競売物件は、「不動産競売物件情報サイト:BIT」を利用すればインターネットでも手軽に取得できます。
「BIT(Broadcast Information of Tri-set system)」は最高裁判所から依頼され、株式会社NTTデータ・スマートソーシングが運営しています。
競売物件情報をはじめ、売却情報・過去データ・競売スケジュールを閲覧できます。さらに、物件種別や価格、地域(都道府県や市区町村)、沿線、担当裁判所、事件番号などから詳細を検索できます。
裁判所の連絡先やお知らせなども掲載されています。
情報入手のための「3点セット」
競売物件を検討するにあたり、物件の詳細情報が裁判所から提供されています。裁判所の競売物件情報閲覧室やBITサイトから入手できます。
また、3点セットが作成されると入札期間・開札日が決定されます。
【物件明細書】裁判所:書記官作成
対象物件の所在、広さや大きさ、権利関係、入札の目安となる売却基準価額などの重要事項が記載されています。「3点セット」の中で最も重要な書類です。
【現況調査書】裁判所:執行官作成
対象物件の外観や室内写真が掲載されています。残置物がある場合は個人情報がわからないように画像処理されています。専有状況も記載されており、調査日に行った居住者のコメントも合わせて記載されています。
【評価書】不動産鑑定士作成
建築基準法や都市計画法などの法的規制や、対象物件の周辺環境に基づいて算出された売却価格や評価となる根拠となる事項が記載されています。物件価格の多くは、市場相場価格よりも3割前後安い価格で設定されています。
競売物件の購入「入札」について
競売物件情報が開示され、BITや「3点セット」で物件情報を確認し検討します。購入したい物件を定め、入札準備に入ります。
「入札期間」:提示された期間内に、売却基準価額を目安に入札金額を決めます。
「特別売却期間」:入札期間内に適切な入札の申し出がなかった場合、裁判所が再度募集をかけるのが特別売却です。特別売却期間内に先着順で最初に買受の申し出をした人に権利が与えられます。
「手数料」:入札をするためには、手数料として「保証金」を現金で納付しなければなりません。保証金は売却基準価額の約2割以上の金額になり、落札できない場合は返金されます。競売の混乱を防ぐため、最高金額を提示した人が残金を期日までに支払えない場合は没収されます。
競売物件「入札」「落札」の注意点
入札の注意点
競売物件の入札は、
- 対象物件の債務者以外の人
- 過去に競売物件入札で違反をしていない(保証金未納など)人
であれば参加できます。基本的に特別な資格は必要なく、個人でも法人でも入札に参加できます。
以前は規制がありましたが、法改正により外国人も自由に参加できるようになりました。入札必要なものは次の3つです。
- 入札書に必要事項を記入(裁判所によりフォーマットが異なるので、対象物件管轄の裁判所から入手)
- 住民票(入札者が個人の場合)
- 保証金の振り込み証明書
保証金の振込は、
- 対象物件開示の裁判所指定口座へ振り込む
- 銀行などの金融機関と支払保証委託契約を締結する
という2つの方法があります。なお、保証金は売却基準価額の約2割相当です。
落札の注意点
最高額を出した「最高価買受申出人」に1週間ほどで売却決定され、「代金納付期限通知書」が届きます。
30日間の期限内に物件代金の残金を支払います。残金は一括で支払うのが原則です。
競売物件購入後のポイント
競売物件購入後は、競売ならではの問題解決がポイントです。競売物件は特殊な事情、主に住宅ローンの返済が困難になり家を没収される場合が多いため、購入手続きが終わってもすぐに購入物件を自由にできるとは限りません。
前の所有者や第三者がそのまま住み続けたり、残置物を撤去したりできないようにするケースです。残置物は勝手に撤去してしまうと、器物損壊罪や損害賠償請求などに問われることもあります。
立ち退き交渉の2つの方法
残金を納付し所有権が移動してから、初めて競売物件内に入れます。自由に利用するためには居住している人を立ち退かせなくてはなりません。
居住者の立ち退きに関しては裁判所は関与しないので、物件購入者が自ら行わなければなりません。交渉の仕方を紹介します。
1)居住者の引っ越し費用を負担:居住者の話を聞くことから交渉を始めましょう。話し合いだけで簡単に立ち退きを受け入れてもらえることは少ないので、引っ越し費用を出すなど、何らかの条件を相手側に掲示するのも一つの手段でしょう。
2)売却許可決定謄本:裁判所から売却許可決定がされた後、申請し交付してもらう謄本です。物件が売却された証明書にあたります。競売物件に居住し続ける住人に「占有権解除」、受け渡しを交渉する際に役立てます。
引渡し命令を出してもらうための強制執行
交渉も居住者が建物などを明け渡してくれない場合、最終手段として「強制執行」手続きを行います。
強制執行は裁判所に申し立てをし、公的立場から強制的に退去させる(引渡し命令を出してもらう)手続きです。競売物件から確実に居住者を退去させられますが、多額の費用が必要になります。
申請手数料・予納金、そして残置物があるときは、撤去料金に加え1か月ほどの保管料金もかかります。撤去には強制執行を得意としている業者に依頼するため、一般的な引っ越し業者の約3倍の費用が発生します。
住宅ローンは利用しにくい
競売物件は保証金納付後、売却許可決定がされ、残金を一括で決済しなくてはなりません。
一般的な不動産売買で利用できる住宅ローンは、競売物件では「利用できない」もしくは「利用しにくい」のが現状です。
住宅ローンは所有権移転と抵当権の設定が同時に行われます。競売物件は、裁判所から法務局に所有権移転を依頼するため、登記までの間にタイムラグがあるため、住宅ローンを利用しにくいといわれています。
1998年の法改正により、事前に買受人が申請すれば競売物件も所有権移転と抵当権設定を同時に行えるようになりましたが、売却許可決定から残金納付まで猶予が1か月しかないため、金融機関の審査を受けることが難しいなどの理由から住宅ローンを利用しにくくなっています
競売物件を円滑に手に入れるには専門家への相談も
競売物件は、さまざまな掘り出し物件を安く購入できるメリットはありますが、引き渡しの義務がないなど買受人に発生するデメリットも多く存在します。
また、購入後に起こるトラブルも考慮しなければなりません。個人で購入を考えている場合は、慎重な事前調査と資金確保が必要になりますが、それでも難しいケースも多くあります。
競売物件を円滑に手に入れるためには、専門の不動産屋に相談することをおすすめします。資金計画や購入の手続きに関して、適切なアドバイスを受けられるからです。