不動産売買において、電気、上下水道、ガス等の生活関連施設の状態を把握することは非常に重要です。これらは不動産の資産価値にも大きく影響される要素であり、同時に調査ミスによるトラブルが多発する項目でもあります。
不動産調査と聞くと一般の方には取っ付き辛いイメージがあるかもしれませんが、実はそんなに難しいものではありません。大部分が役所等の自治体から無料で資料を取得できますし、大事なポイントだけを押さえておけば、大きなトラブルを回避することができます。
今回は生活関連施設を紹介していきます。さっそく見ていきましょう。
生活関連施設(電気、上下水道、ガス等)の調査は重要!
一般に生活関連施設と呼ばれるものは、電気・ガス・上水道・下水道といった普段の生活に欠かすことのできない施設です。
これら生活関連施設の整備状況によっては、普段の日常生活を送る上で大きな制約を受けてしまうこともあるので、宅地建物業法では、重要事項説明書の説明義務項目に指定しています。一般的な重要事項説明書の雛形では、
- 直ちに利用可能な施設
- 配管等の状況
- 整備予定・負担金
の3項目を記載し、説明するような形になっています。
調査方法は、各種図面の閲覧や関係機関へのヒアリングをベースに行うのですが、この生活関連施設は不動産調査のプロである不動産仲介業者でも調査ミスによるトラブル発生が多い項目でもあるため、買主・売主である当事者も独自に把握することが大事です。
生活関連施設(電気、上下水道、ガス等)の調査事項と確認方法
ここでは、具体的にそれぞれ生活関連施設の調査事項と確認方法について見ていきたいと思います。
① 水道
水道の調査は、自治体の水道局などの担当課や各支所・出張所の工事課で「上水道配管図・台帳」を閲覧して確認します。その際に「上水道配管図・台帳」の写しを取得しましょう。調査する項目は下記の通りです。
水道の種別の確認(公営水道、私営水道、井戸)
日本では首都圏をはじめ、ほとんどの地域で公営水道が整備されています。
しかし、稀に井戸水を利用している場合があります。井戸水をそのまま利用することも可能ですが、その際には必ず水道局や保健所などで飲用可能か水質検査を行ってください。井戸水はピロリ菌が含まれている可能性があり、菌の量によっては健康に害を及ぼす可能性があります。
私営水道の場合は、運営元である維持管理者に問い合わせをして、利用の承諾を取る必要があります。私営水道は公営水道と違い、別途利用料等の負担金が発生する場合がありますので、調査する際に注意しましょう
水道の整備状況・整備時の負担金の確認
敷地内に配管が引込済みか、前面道路に本管が埋設済か、直ぐに利用可能な状態なのか確認します。
仮に公営水道の本管が土地の前面道路に整備されているにも関わらず、敷地内に引込みがされていない場合(現況で井戸水を利用しているケース)は、引込工事をすることをお勧めします。数十万円程度の工事費用は発生しますが、自治体からの助成金等もありますので実費分の負担は軽くなります。もちろん井戸水よりも公営水道の方が不動産の価値は高くなります。
水道の容量(配管の口径)
道路に埋設している本管の口径は地域によって差はあるものの75mm~100mmくらいが多いです。
一方で敷地内引込管の口径は20mmが多いです。たまに口径13mmの場合がありますが、浴室やキッチン等の水回りの水圧が弱くなることもあるので、心配であれば実際に蛇口を開けて水圧を確認しましょう。
水道の配管の種類(公管か私管か)
公管であれば自治体が所有・維持管理していますので、特に問題はありません。
もし私管から水道の引込をしている場合は、その私管の所有者に利用の承諾をもらう必要があります。私管のよくあるケースとして、一定規模の開発をして分譲した住宅街などでは、配管の所有者が開発者である不動産業者の場合があります。
このケースでは使用承諾をもらうのはそんなに難しいことではありません(筆者のこれまでの実務経験でも利用承諾を断られた経験はありません)。
一番やっかいなのは、一般個人が配管を所有しているケースです。これも同じように利用承諾を所有者にお願いするのですが、意地悪な所有者に当たってしまうと法外な利用料などを請求してくる場合がありますので注意が必要です。
水道の整備計画の見通し(公営水道未整備の場合)
公営水道が今後整備される地域に該当するかどうか確認しましょう。
繰り返しになりますが、現在の日本で公営水道未整備な地域は滅多にありません。
② 電気
電気の調査は電力会社に問い合わせて確認します。調査する項目は下記の通りです。
- 整備状況(直ちに利用可能か、接続を要するか)
- 電力量(アンペア数等)
- 整備計画、負担金
電気に関しては、特段トラブルに発展することは多くありません。それぞれの管轄する電力会社に問い合わせて確認しましょう。
最近は電力自由化に伴い、東京電力などの主な電力会社以外から電気の供給を受けているケースもありますので、しっかりと確認しておきましょう。
③ ガス
ガス会社及びその営業所で、「ガス導管図」等を閲覧して確認し、写しを取得しましょう。なお、プロパンガスといった都市ガス以外の場合は、別途ガス会社との契約内容を確認する必要があります。調査する項目は下記の通りです。
ガスの種別・配管の状況(都市ガス、集中プロパン、個別プロパン)
都市ガスが利用可能ならガス導管図を確認して、前面道路配管や敷地内引込配管の位置、口径を調べましょう。例えば、東京ガス管轄の都市ガスであれば、同社のホームページから誰でも簡単にガス導管図を取得できるので便利です。
集中プロパン、個別プロパンの場合は、ガス会社と既存の契約内容を確認しておきましょう。
ちなみに都市ガスとプロパンガスはどちらがお得か?という議論をよく耳にしますが、これは間違いなく都市ガスの方が利用料金は安いです。理由は、都市ガスは公共料金、プロパンガスはガス会社の自由料金だからです。実際に物件を探している方で、プロパンガスの物件をNGにする方も意外と多かったりします。
ガスの整備計画の見通し
都市ガス未整備の地域では、今後、都市ガスが整備される予定があるか確認しましょう。
④ ~ ⑥下水道(汚水・雑排水・雨水)
自治体の下水道局担当課、各支所や出張所の排水設備課または建設事務所で「下水道配管図・台帳」を閲覧して確認し、写しを取得します。調査する項目は下記の通りです。
下水道の種別の確認
・汚水(公共下水、個別浄化槽、集中浄化槽、汲取り式)
・雑排水(公共下水、個別浄化槽、集中浄化槽、側溝等)
・雨水(公共下水、側溝等、浸透式)
それぞれ、どのような排水方式を取っているか確認します。首都圏などのインフラが整備されている地域では、主に公共下水が利用されていますが、少し地方にいくと未だ浄化槽を利用している地域は多く存在します。
浄化槽は「個別浄化槽」と「集中浄化槽」のどちらかに分類され、個別浄化槽は戸建て一軒につき1つの浄化槽が設置されており、集中浄化槽は団地全体の汚水・雑排水を一箇所に集約処理する方式です。
また、個別浄化槽はさらに「単独浄化槽」と「合併浄化槽」に分類されます。単独浄化槽は汚水のみを処理し、台所や浴室からでる雑排水は側溝に垂れ流しすることになります。
一方で合併浄化槽は汚水・雑排水を纏めて処理します。現在の法律では単独浄化槽の新設は認めておらず、浄化槽を設置する場合は合併浄化槽になります。
続いて雨水の処理方式ですが、下水が合流式か分流式かによって違っており、合流式の場合は公共下水、分流式の場合は側溝等か浸透となります。
合流式下水道は、汚水も雨水も一緒に下水処理場まで送る方式です。合流式下水道の場合、汚濁物を含んだ雨水も処理場で処理されますが、大量の雨が降ると、汚水の一部が未処理のまま河川等に放流されてしまいます。
分流式下水道は、汚水用管路と雨水用管路の2つを埋設し、汚水は下水処理場へ、雨水は川や海に直接放流します。汚水と雨水をそれぞれ専用の管で集めるので、河川の水質が守られ、環境面でも衛生面でも優れた方式といえます。
下水道の整備状況・整備時の負担金
公共下水管が敷地内に引込済みか、前面道路に埋設済か、直ちに利用可能か確認します。
前面道路に本管が埋設されているが敷地内には引込が未だされていない場合、こちらも上水道同様に不動産の資産価値の観点から引込工事をすることをお勧めします。
また、将来的に前面道路に下水本管が埋設される予定の場合は、受益者負担金の有無を確認します。受益者負担金とは、公共下水道の整備により利益を受ける不動産の所有者に建設費の一部を負担させる制度で、新たに公共下水が整備される地域では、強制的にこの受益者負担金を支払わなければなりません。
気になる負担金額ですが、自治体によって差はあるものの10~20万円くらいが目安になります。
下水道の容量(配管の口径)
道路に埋設している本管の口径は地域によって差はあるものの200mm前後が多いです。一方で引込管の口径は150mm前後が多いです。
下水道の配管の種類(公管か私管か)
公管であれば自治体が所有・維持管理していますので特段の問題はありません。
もし私管を通して排水がされている場合は、上水道と同様に私管所有者の承諾を得る必要があります。ただし、上水道と比べて下水管が私管であるケースは多くありません。
まとめ 生活関連施設における注意点のおさらい
最後にまとめとして、生活関連施設における注意点をおさらいしておきましょう。
1.埋設配管の確認
上下水道配管が私道や私有地に埋設されている場合、その配管は私道・私有地の所有者に帰属している可能性が高いため、利用や新規接続の工事にはその所有者の承諾・同意が必要になります。
所有者を確認し、事前に承諾協議を済ませておくことが必要です。既に配管が敷地内に引込済みであっても、建て替え工事でトラブルになる危険性がありますので同様の注意が必要です。事前に必ず利用承諾書を取得しておきましょう。
2.配管の容量
建物の建て替えや増改築による水回りの増強等を計画している場合には、既存配管では容量不足になり、結果的に建築計画が成り立たなくなる危険性があります。
敷地内への引込管だけでなく、接道の本管も含めた既存配管の容量や、配管を新設する場合には必要な費用を関係機関に確認して明確にしておく必要があります。
3.整備工事に伴う負担金
対象不動産の接面道路に本管が無いため、離れた場所からの引込工事が必要となってくる際には、配管の工事に伴って多額の負担金の支出が必要になることが考えられます。
これら工事費用等の負担金についても事前に関係機関に確認する必要があります
3.整備計画の確認
現在利用できる生活関連施設がない場合には、その整備計画も確認する必要があります。接面道路に本管が埋設されていない場合には、将来整備予定があるのか、整備予定がある場合はいつ頃になるのか確認しましょう。
生活関連施設の状態は、不動産の資産価値の観点からみても非常に大きく影響される要素であり、同時に調査ミスによるトラブルが多発する項目でもあります。一般的な不動産の売買取引においては、プロである不動産業者がしっかりと調査をしてくれますが、買主・売主である当事者もしっかりと把握したうえで契約に臨みましょう。